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第51話

 見えない力に抗えない。  俺の意志をまるで無視して差し出された右手が…… (鍵を) 「ダメだ!」  叫ぶけれど。  制止する声も虚しく、魔法の力を持つ鍵がオルフェの手に移っていく。  俺の手から、大切な鍵が離れていく。 「もう誰の手にも渡る事のないよう……」  パリンッ!! 「こうしておきましょう」  甲高い音が静寂を割った。  オルフェの手の中で砕け散った鍵が光の粉になって、サラサラ滑り落ちていく。  サラサラ、サラサラと…… 「なんで……」  鍵は元々オルフェの物。  オルフェに返すのも、自分の鍵をオルフェが壊すのも、俺がとやかく言える事じゃない。  でも。 「大切な物じゃないのッ!」  大切な物を目の前で壊されたのが、ひどく突き刺さる。  胸が痛くて、体が震える。 「…………大切な物、ですか」  長い長い沈黙の後、吐息が注いだ。  一歩、そしてまた一歩、足音が近づく。 「そんな物を大切にした事は一度もありません」  カツン  足音が止まった。 「大切に思うのは、いつもあなただけです」  つま先から長い影が伸びて、オルフェの影の中にすっぽりと入っている。 「私の大切な勇者様、体を繋ぎましょう」

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