51 / 53
第51話
見えない力に抗えない。
俺の意志をまるで無視して差し出された右手が……
(鍵を)
「ダメだ!」
叫ぶけれど。
制止する声も虚しく、魔法の力を持つ鍵がオルフェの手に移っていく。
俺の手から、大切な鍵が離れていく。
「もう誰の手にも渡る事のないよう……」
パリンッ!!
「こうしておきましょう」
甲高い音が静寂を割った。
オルフェの手の中で砕け散った鍵が光の粉になって、サラサラ滑り落ちていく。
サラサラ、サラサラと……
「なんで……」
鍵は元々オルフェの物。
オルフェに返すのも、自分の鍵をオルフェが壊すのも、俺がとやかく言える事じゃない。
でも。
「大切な物じゃないのッ!」
大切な物を目の前で壊されたのが、ひどく突き刺さる。
胸が痛くて、体が震える。
「…………大切な物、ですか」
長い長い沈黙の後、吐息が注いだ。
一歩、そしてまた一歩、足音が近づく。
「そんな物を大切にした事は一度もありません」
カツン
足音が止まった。
「大切に思うのは、いつもあなただけです」
つま先から長い影が伸びて、オルフェの影の中にすっぽりと入っている。
「私の大切な勇者様、体を繋ぎましょう」
ともだちにシェアしよう!