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第52話

 オルフェ、いまなんて言ったの?  世界が反転する。  視界に映るのは、天井……  どうして?  バサンッ  シーツの海が揺れた音でハッとする。  真っ白いシーツに俺の体は縫い付けられて…… 「魔力だけだと思って油断しましたか?」  声が頭上から降ってきた。 「体術でも引け劣りませんよ」  繋がらない記憶のピースを必死に探す。  俺と天井の間に、紫色の瞳。  彼が静かに見下ろしている。 (俺はオルフェ……)  捕まって、そしてそのまま…… 「そう。あなたは私の手で押し倒されています。なぜかは……お伝えするまでもありませんね」  手首を頭の上でひとまとめにされ、オルフェの左手に囚われている。 「待って!」 「待てません」 「どうして急に、こんなッ」 「あなたは弱い勇者様だ」  ズキンッ  突き刺さされた言葉の刃が心をえぐる。 「私が庇護して差し上げます」  深い夜の灯る紫の瞳が降りてきて、反射的に目を閉じた。 (キスされる!)  ぎゅうっと唇を結ぶ。  あたたかく、柔らかなものがそっと額に触れた。

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