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第5話
今日は定時で上がる、と思っていたが少し超えてしまったため、日高は小走りで櫂の家に向かう。今日に限り飲食店であるバイト先は盛況でホール内を走り回った為、汗臭くないか部屋前で服の匂いを嗅いだり、前髪を整える。チャイムを押そうとした瞬間に部屋のドアが開いた。
「うわっ!」
思わず声が出てしまった日高に、櫂も呼応したようにうわ、と声を上げた。
「悪い。部屋の前にいるのわかったからドア開けたんだが、驚かせたな。」
「いや、全然。大丈夫。」
焦って赤くなる顔を日高は隠す。風呂上がりなのか櫂からふわり、とシャンプーの匂いがした。昨日近くで嗅いだのを思い出して顔の赤みが増す。
「突然呼び出してごめんな。昨日のこと、なんだけど。」
居間に通されてソファに2人で腰掛ける。櫂が険しい顔で昨日のこと、と切り出したことにより良くない話なのは日高にもわかった。
昨日のことを後悔しているのだろう。
「櫂は悪くない。俺が全部迫ったことだから。だから、櫂が後悔しないでほしい。」
少し泣きそうな顔で言ったことは日高にも自覚があった。その言葉を櫂から口に出してほしくはなかった。
「いや、後悔なんて…。ごめん。なんか酷いよな、俺。」
「櫂は昨日俺としたのは嫌だった?千隼の弟じゃなかったとしても?」
「…そんなことない。嫌じゃなかった。ただどうしても終わった後に千隼も日高も裏切ってしまったような気がする。」
櫂が嫌じゃなかった、というのは本当の言葉だった。なんなら今までシてきた誰よりもよかったと思う。それは体の相性もそうなんだろうが、日高の顔が千隼に似ていることも一つだろう。
そしてもう一つ。
「そんなの後悔した感情ごと全部俺が貰うから。お願いだから後もう少し俺といてほしい。」
そう言って日高の真っ直ぐ大きな目が櫂を貫く。いつも表情のない日高が最大限に感情を吐露してる。それがあまりにも綺麗で、櫂は顔を逸らした。
昔から千隼は表情豊か。
日高は表情がわかりにくかった。
顔はなんとなく似ているが、千隼は愛嬌があり
日高はとにかく造形が美しかった。
口数の少ない彼だったがそれでも女の子にはモテていただろう。
しかし櫂の知る限り、日高が告白を受けることはなかった。まさかその理由が男が好きだからと言う理由だとは知らなかったが。
そして先程のもう一つ、というのはこれだった。
そんな日高が俺の前で綺麗な顔で表情を表している。昨日の快楽で惚けた顔があまりにも艶美で櫂は興奮してしまったのだ。
だから櫂は今日この関係を清算するために呼んだが、この顔をされるとどうにも押し切れなかった。
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