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第9話
お酒が進んできて、皆酔いが回ってきた頃に蟹江先輩は口を開く。
「あ、そういえば2人ってどういう知り合いなの?高校の先輩後輩にしては敬語じゃないよねぇ。」
「今かよ。」
「俺の兄が櫂と同級生で、小学生の頃からの幼馴染なんですよ。」
「ふーん。じゃあどんなやつか知ってる?」
「なにが?」
「日高の好きな人。昔からずっと片想いしてるんだって。」
「蟹江先輩!」
日高は柄にもなく焦り、蟹江先輩の口を塞ぐ。まさか本人に言われると思って居らず、櫂の顔を見ることが出来なかった。
櫂もは?という言葉だけ漏らしそこから言葉はない。
日高はこんなことになるのなら蟹江先輩に言うんじゃなかった、と後悔しか胸を満たさなかった。
「どんなやつ?」
「うーん、昔から好きだったとしか。なんだ綾瀬も知らないんだ。しょぼい奴なら僕にしとけばって言うつもりだったのに。」
「いや、蟹江先輩そういう冗談は…」
「冗談じゃないよ。」
そう言って蟹江先輩は日高に顔を向ける。長い前髪から見える綺麗な目に見つめられると日高はつい蟹江先輩の言葉を真に受けてしまいそうになる。
「席交代。」
そんな目が急に視界から消えたのは蟹江先輩が櫂によって立たされたからだと後から日高はわかる。そして日高の隣に櫂が座った。
「ちょっと〜。良いところだったのに。」
「お前は危険だ。俺の可愛い弟をお前になんかやれない。」
弟、という言葉が日高の胸を突き刺したのは言うまでもなかった。
今までも何の気なしに言われたその言葉が昔より刺さってしまうのは、やはりこの関係により少なからず恋愛対象として近づけたと思ってしまったからだろうかと日高は落ち込む。
「ふーん、日高のこと可愛がってるんだ。」
「当たり前だろ。」
「ちょっとお2人とももう、やめて…」
そう言いかけて、手の違和感に日高は言葉を止める。
櫂が日高の左手を握っていたからだった。
絡められたその手は数分前まで冷たかったのに今は熱を持っている。
「蟹江にはあげねーよ。」
そう言った櫂の顔を日高は見ることが出来なかった。
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