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第10話

「櫂、大丈夫?」 ぼんやりとした意識の中で日高の声が聞こえて、櫂は目を開ける。 自分でも飲みすぎた自覚はあった。少し不機嫌だった自覚もある。その原因が自分自身でもよくわからず、その不快感をかき消すように櫂はいつもよりお酒を飲んだ。 帰り際に飲み過ぎて朦朧としている櫂を日高が送っていきます、と蟹江に告げた。蟹江は今度は2人で飲もうね、と話す。そんな声だけが耳に滞留してまた理由が曖昧な苛立ちが湧いてくる。 帰り道に日高に支えられながら歩く道はなんだかほんのり暖かくて、横を見れば少し気分がよさそうな日高がそこにいるから櫂は苛立ちが和らいでいくのを感じた。 「なあ、蟹江と仲良いの?」 「ああ。よく気に掛けてくれるんだ。尊敬している。」 「…好きな人のこと話せるくらい?」 俺にも話してくれないのに? その言葉を櫂は自分の中に閉じ込める。その言葉が大量の嫉妬に塗れていて日高に吐露するには余りに汚れている気がした。 「…長く好きな人がいるって話をしただけだ。それ以上のことは言ってない。」 「そんなに長いこと好きなのか?」 「…小学生の頃からだから割と長いな。」 日高は櫂の少し先を歩いていて、表情が見えない。だけれど決して笑ってるわけではないことは櫂にもわかっていた。 同じように長い片想いをしているのに無神経なことを聞いてしまったと酔った頭で反省する。 「これから先も好きでいんの?」 それでもこれだけは聞いておきたい、そう思ってしまった。 「多分、死ぬ瞬間まで好きだ。」 そう言って笑った日高があまりに綺麗で櫂は胸が竦む。数歩先の日高の背中に追い付き、無言で手を握った。

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