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第13話

目の前に星空が広がり、改めて日高はこの異常さに首を傾げる。 櫂と日高は街に繰り出し、櫂が服を選んでくれ、それを買って貰った。日高はプレゼントを貰うのを理性ではダメだと思いながらも、いざとなれば嬉しくて堪らなかった。そんな感情でいっぱいになった日高はそのまま櫂に促されるまま着いていくと、何故かプラネタリウムに辿り着いていた。 「なんで、プラネタリウム?」 「あれ、日高って星好きじゃなかった?」 「…知ってたのか?」 日高は星が好きだ。そして天文学が好きであった。 将来天文学に携わる仕事をしたいと思っているくらいには、日高にとって人生を捧げているものだ。 「俺はやりたいことがないから。一途にやりたいことがある日高のことずっとすごいなって思ってた。」 そう言った櫂は乾いたように笑う。 「いや、俺はひとつのことしか好きになれないだけだ。…櫂は教師の道に進むと思っていた。」 「まあ教育学部だからそのつもりだけどな。向いているかやる度にわからなくなる。」 櫂はずっとわからなかった。 なんとなくの興味だけできた教育の道。 進む度に自分は人に教えるような立場なのか?と考える。 人になにか教えることは人生を背負うと等しいと感じていた。それを自分ができるなんて思えなかった。 「悪い、忘れて。」 その不安が一欠片漏れてしまったのに気づき、櫂は情けなさから慌てて取り繕う。 「櫂、今日のプラネタリウムは星の王子様が題材だろう?俺はこの本で星に興味を持ったんだ。」 「え?」 「星の王子様を最初に教えてくれたのは櫂だ。」 そう日高が言うと、櫂は驚いた声を上げる。その声に日高はやっぱり忘れてる、と頬を緩めた。 日高達の両親は共働きで、千隼がよく日高の面倒を言い付けられていた。しかし自由奔放の彼は日高をほったらかして他の人と遊びに行ってしまう。そんな時に日高のそばにいてくれたのは櫂だった。 櫂はいろんな本を日高に読んで聞かせてくれた。その中の一冊が星の王子様だった。 幼く、読み聞かせだけじゃ理解できなかった本を櫂はわかりやすく面白く思えるように説明していた。 「教師という仕事のことはよくわからないか、俺は櫂が教えてくれたからあの本を好きになれた。そして星を愛せた。それが俺の人生を幸せにしてる。ありがとう。」 それは櫂を慰めるでもなく、共感も否定もしない、不器用な日高の純粋な感謝だった。 だからこそ櫂の心にまっすぐ響いて拡がる。まるで悩みごとを優しく溶かすような日高の言葉だった。 (大切なことは目にみえない、か。) 櫂は日高をみる。 プラネタリウムを眺めて、いつもより心地良さそうな日高をみると嬉しくなる。 千隼とは違って少ししか変わらない表情も、気付けるようになればもっと色んな表情を見たいと思う。 だからここに来た。 ただ、それだけだった筈。 (日高は俺のことどう思っているんだろう。) (俺は日高をどう思っているんだろう。) その目に見えない感情の答えは喉をつかえてうまく出てこなかった。

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