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第15話
実家からの大量の野菜を抱えてバイト先に向かう。
母に捕まり思ったより実家に長居してしまったため、一度自宅に帰ろうという計画は崩れてしまった。
「おつかれ、日高君。すごい荷物だねえ!」
「蟹江先輩、お疲れ様です。実家に帰っていたんですが、自宅に戻る暇がなかったです。」
休憩室に入ると着替え中の蟹江が日高を出迎える。日高も重い荷物を漸く下ろし、ロッカーに詰め始める。
「そういえばこの前綾瀬を任せちゃってごめんね。ちゃんと帰れた?」
「はい、近かったんで大丈夫です。」
「そっかぁ、良かった!綾瀬でしょ、日高君の片想い相手。」
「ええ、まあ。…え、かた…えっ!」
日高の手が止まる。あまりに自然と聞かれた言葉につい頷いてしまったがまさか気持ちがバレていると思っていなかった日高は頭が追いついていなかった。
「わかるよ、日高君の態度みてれば。しかもなかなか親密に見えるけど?」
「…いえ、それはないです。俺の片想いに櫂が付き合ってくれているだけなので。」
その言葉に蟹江は首をかしげる。蟹江としてはそうは見えなかった。すっかり2人はお互いに思い合っているものだと感じていたからだ。
「…そう。綾瀬は君の気持ち知ってるの?」
「知りません。教える予定もないです。墓場まで持っていきます。」
そう言った日高の目があまりにも哀しく真っ直ぐで、蟹江は何故か不安になる。
今にも消えてしまいそうだ、と思った。
「ねえ、日高君はどこか遠くに行ったり、…死んだりしないよね?」
その言葉にあまり表情が動かない日高の目が大きく見開かれ、そして蟹江から顔を背けた。
「…はい。」
それが嘘だと蟹江にはわかったが、それ以上は口を開けなかった。
ただ自分が恋するこの優しい後輩が消えてしまわないように、蟹江は祈るしかなかった。
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