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頸 2

「さあ、今日からここが君の部屋だ」  僕が彼を連れこんだのは山小屋の奥に造ったバスルームだ。少し広めにスペースをとったそこは、僕にとっては何の変哲もない普通のバスルームである。  だが彼の目にはそう映らなかったらしい。彼の目はある一点を凝視していた。 「……ああ。気に入ってくれたんだね」  それは黒い革の首輪だ。大型犬用のそれは、やや太めの彼の首にもはまるだろう。首輪には鎖が繋がっており、反対側はタイル張りの壁にしっかり埋めこまれている。人間の力ではどうやっても外せない。 「ううーッ!」  自らの身に起こることを察したのか、彼は突然暴れだし、僕を振り切って出口へと駆け出した。  予期せぬ彼からの抵抗に僕は一瞬よろめいたが、すぐさま体勢を立て直し、彼の後を追った。  狭い室内だから彼にはすぐ追いついた。扉を開けることに躍起になっている彼に、僕は無言でスタンガンを押し付けた。  声を上げる間もなく彼はその場に崩れ落ちた。衝撃に目をみはり、鼻を膨らませて息をする彼を、僕は冷ややかな目で見下ろした。 「危ないじゃないか」  正直、彼がまだ抵抗するとは思わなかった。僕は倒れたままの彼を引きずりバスルームへと戻った。苛立ちのあまり彼の髪を掴んで引っ張ったのは、無意識の行動だったと思う。  それから僕は彼に首輪をつけ、バスルームに拘束した。身体が痺れたままの彼は無抵抗だった。  準備を終えた僕はシャワーヘッドを手に取りコックをひねる。水が流れるか確かめるための行動だったが、シャワーから流れる水は床に倒れたままの彼にもかかった。  テープで口を覆われたままの彼は、上から降ってくる水から逃れようと、動く範囲で身体をよじる。  それが面白くて、僕は彼の顔目がけて思いきりシャワーを浴びせた。 「ふぐッ……うぅ……」 「……ははは」  僕は水を止めて彼の傍にしゃがみこみ、口を塞いでいたテープと布を取り除いた。  彼は荒く息を吐き、酸素を貪った。  彼の顔はシャワーの水だけではなく、唾液や鼻水でぐしょぐしょになっていた。普段の精悍な顔つきが台無しである。  でも僕はそんなこと気にしない。僕は彼を顔で選んだわけじゃないのだから。 「……やめろ」  ようやく呼吸が整ったのか、蚊の鳴くような声で彼が喋った。  その声は掠れ、今にも消えてしまいそうだったが、僕と目が合うと、彼はさらに捲し立てる勢いで僕に突っかかった。 「俺は、何も知らない……ッ。お前のことは誰にも言わないから、だから帰してくれ……!」 「嫌だよ」  僕は一言で切り捨てた。  彼は呆然としたまま数秒固まり、やがて怒りを露わにして僕に食ってかかった。 「ふざけんなこのホモ野郎! いつも俺を変な目で見やがって……ッ。こんなことして許されると思ってんのか? ちくしょう、俺が何したって――」 「何もしてないよ」 「……は?」  僕は至極当然とばかりに言った。 「君は何も悪くない。それは君自身が一番わかっていることだろう?」 「……だからって」 「君は大人しく僕の言うことを聞けばいいんだ。さっきも言ったよね」  彼は黙りこんでしまった。どうやら返す言葉を失ったらしい。  僕はシャワーを彼の真上にセットして、緩くコックをひねった。一滴ずつ彼にかかるように量を調節して、僕はバスルームを後にした。鎖で繋がれ、両腕を後ろ手に縛られたままの彼は、身動きが取れない。彼の身体から痺れが引くまで、僕は彼を放置することにした。彼を弄ぶのは、じわじわと体力を奪った後のほうがいい。  僕はシャワーで濡れた服を着替えながら時間が過ぎるのを待った。

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