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髪 2
いつしか薫は成長し、その発達は未熟だとはいえ、少しずつ男らしくなってきた。それはすなわち香織の面影が薄れてきたと言っても過言ではない。
私は焦った。だが、その焦りを当人に気取られないように、気を払った。
ある日、身の回りの世話をしに来た私に、薫は自らの髪を撫でながら問うた。
「正臣さん。どうして私の髪は長いのに、正臣さんの髪は短いの?」
目が見えないなりに、その他の感性は鋭いらしい。私は薫の髪を撫でながら、答えた。
「薫の髪が美しいからだよ」
「私の髪は美しいのですか?」
「ああ、美しい。薫の髪は美しい」
「……私の髪は美しいのですね」
薫は鈴の音のようにコロコロと笑い、自らの髪を何度も梳いた。
薫には自分を『私』と呼ぶように教育してある。理由は言わずもがな。私も薫の前では同じように自らを呼ぶ。
そしてこの頃から、私と薫の関係が少しずつ変化していた。
「おいで、薫」
「正臣さん……正臣さん、どちらにいらっしゃいますか」
「私はここにいる。ほら、手を取って。私の元へおいで」
「ああ、正臣さん。そちらにいらっしゃいましたか。正臣さん、ああ正臣さん」
「服を脱いで、私の上に跨るのだ。さあ、恥じらわないで。どうせ、君は目が見えないのだからな」
「はい、正臣さん」
薫は美しく成長した。それは髪だけではない。土蔵に閉じ込められたままの身体は病的なほど白く、また華奢であった。何も見えない目は大きく、低い鼻に小ぶりな口。実に愛らしい容姿だ。
私は薫の中に、かつての香織の身体を見出したのだ。
「ああ……っ、ま、正臣さん……ん、んんぅ……っあ」
「薫……ああ、私の薫……」
「い、痛いです……正臣さん、痛いです……」
「我慢しなさい。この痛みは、私が君を愛している証だ」
「正臣さんが、私を、愛して……?」
「ああそうだ。私は薫を愛している。愛おしくて、愛おしくて、たまらないのだ」
私は未成熟な薫の身体を凶悪な男根で貫いた。
薫は細い悲鳴を上げたが、私の衣類を掴み、必死に苦痛を耐えている。
その無垢な努力が愛おしかった。
私と薫の性交はその後も続いた。
私は再び香織を抱いているような気分になったが、薫の方は回を重ねるごとに、気分を損なうようになっていた。理由を問うが、彼は何も答えない。だが私の方はおおよその見当はついていた。
薫は私の成人男性としての身体に憧憬を抱くとともに、ひどく嫉妬していたのだ。私の身体に比べて、薫ははるかに華奢で、どちらかというと女らしい体躯である。
思春期に入り始めて、初めて自分の身体に対する不満が募り始めたのだ。
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