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爪 5

      ◇ 「だいぶ伸びたんじゃなあい?」  今日のヒカルは真っ赤なカラーコンタクトを装着している。  ビビッドなピンクの髪色と奇抜なカラーコンタクトとの相性は最悪だ。刺激的な色彩のコントラストに目が眩みそうになる。 「今日もお手入れしましょうね」 「……」 「ナルミさぁん……今日もだんまり? 僕、ナルミさんの声が聞きたいな」 「……」 「はーあ。どうしてそうムキになるかなあ。そろそろ一週間だよ? もう少し僕に対して心を開いてもいいんじゃなあい?」  ヒカルはニタニタと嫌な笑みを見せる。とことん無視を決めこむと、ヒカルはベッドに乗り、腹の上に馬乗りになった。 「いい身体」  ヒカルの股間が下腹部に当たる。びくりと肩をすくます。なぜかヒカルのものは反応していた。 「ナルミさん、どうしたの? びっくりしちゃった? ごめんね、僕やっぱりナルミさんのこと好きみたい」  ヒカルはそのまま覆い被さる。不思議と圧迫感はない。ヒカルの体重が軽いせいだろうか。  悠長なことを考えていると、唇をぺろりと舐められる。  真っ赤な両目は眼前に迫っていた。 「爪、伸びたねえ」  ヒカルは顔面を砂糖菓子でも舐めるようにぺろぺろと味わいながら、手錠で拘束された手を取る。  ヒカルの言う通り、監禁生活の長さだけ爪も伸びていた。  ヒカルは毎日やすりをかけて手入れをしていたが、それは指先の形を整えていただけであって、爪自体を切ったことはない。  十本の指、すべてを確認したヒカルはニタリと笑う。  唐突に理解する。  そうか、この男はまさか――。 「そうだよナルミさん。僕はナルミさんの爪が好きなんだ。でもギター弾くために短く切っちゃうでしょ? もったいないから、僕がナルミさんの代わりに爪を綺麗にしてあげるんだ」  うふふとヒカルは笑い、いったん視界から姿を消し、ガラガラと何かを引いて戻ってくる。  首を持ち上げて、音の出所を探る。  台車だ。 「ああ、これ? 僕の商売道具」  そういってヒカルは台車をベッドのわきに寄せ、自分はその隣に腰かける。 「ナルミさん。手のひらをパーにして。両手とも。ねえ、何でグーにしちゃうの? 僕の話聞いてた?」  この男相手に時間稼ぎは通用しない。ヒカルとの攻防にも疲れた。  爪を弄らせるくらいどうってことはないだろう。  両手の力を抜いた途端、真っ赤な双眸はキラキラと喜びに満ちた視線を放つ。 「そうそう上手上手。やっぱり綺麗だなあ。ねえ舐めてもいい?」  ヒカルは了承を得る前に両手を枕元について、覆いかぶさるように爪を舐めた。  見上げた先に上下するヒカルの喉仏が見える。  じゅぷじゅぷとしたはしたない水音も聞こえる。  そんなにこの爪が好きか。  聞いたところでヒカルの行為は止まらないだろう。 「じゃあナルミさん、始めるよ。この僕がもっと綺麗な爪にしてあげる」  透明な糸が伝う。  それが爪を舐め終えたあとの唾液だと気づいたときにはすでに、ヒカルはギラギラと輝く瓶を手にしていた。  ラメの入ったシルバーのマニキュアである。 「……本当に塗るのか?」  思わず本音が出る。  久方ぶりに発した声は、どこかかすれていた。 「大丈夫、変なコトはしないよ」  ヒカルは瓶にキスをし、キュッと音を立てて蓋を開ける。  鼻につく、シンナーの臭いがした。

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