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脚 4

 所長室での邂逅後、吉村は井橋を飲みに誘った。  同僚の田所とは違い、かつての先輩である吉村の誘いは断れない。  少し足を伸ばして繁華街の居酒屋に入ったが、酒の味などわかるはずもなかった。 「ずっと俺は心配していたんだ」  工場を出た吉村は開口一番、そう口にした。  吉村が所長室を訪問したのには理由がある。吉村は大手取引先の営業で、かねてより契約していた商品の更新に訪れたらしい。  だがその取引に井橋はまったくと言っていいほど関わってはいない。  どのような経緯で井橋の名が出たのかはわからないし、知りたくもない。  十七年ぶりの吉村は学生時代の面影を残しつつも、成熟した大人の男になっていた。  営業マンらしくオールバックに整えており、秀でた額が男らしい色香を放ち、スーツの下の均整のとれた肢体は引き締まり、彼をいっそう若々しく見せた。  だが、井橋は気づいてしまった。  吉村がまだあの夏の痛みを抱えていることに。 「そんな顔をするな。俺は気にしていないから」  吉村は右脚を引きずって歩いていたのだ。  当人は何でもない風を装っているが、完璧主義の男の唯一の欠点にもなりえた。  その姿から井橋は目をそらし、吉村との会話にも相槌を打って対応することしかできない。  居酒屋ではカウンター席に通され、吉村はまいったなあと苦笑をもらした。 「一段上がらないとな」 「別の店にしましょうか?」 「いや。移動するほうが痛む。ここにしよう。飲むよな、井橋」  明日は早番だ、とは言えなかった。吉村の機嫌を損ねるようなことはできない。  こうなるのならば素直に田所と飲みに行くか、さっさと帰ればよかった。  もやもやとすくう思いを悟られないように、井橋は目の前で注がれたビールを一気に飲み干した。

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