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骨 4

      ◇  ――あの日、僕はすべてを見ていた。  倉科貴一の思考は八年前の篠宮音也との出会いから、現在のイチョウ山へと舞い戻る。  カルボン酸の鼻が捻じ曲がるような臭いには、もう慣れた。  落葉したイチョウの葉の絨毯に寝転がり、夜空を眺める。そういえば、中秋の名月だったか。丸い月は幻想的である。毎年見上げる月は、いつも同じ形だ。月明かりの美しさも、いつも同じだ。  この場所にいると、貴一はまるでスポットライトを浴びたような気分になる。特別なステージだ。それは舞台に上がり、観客の前でピアノを弾く高揚感にも似ている。 「先生、僕はステージに立つあなたを観たかったなあ……」  貴一はその場に腹ばいになり、イチョウの葉を掻き分け、湿気った地面をあらわにしていく。  何かが腐ったような悪臭が立ちこめようとも、貴一はその手を止めようとはしない。  逢いたかった人がそこにいるのだから。 「篠宮先生……」  裏のイチョウ山でもひときわ目立つ大きなイチョウの木の下。  陽の光が当たらず、鬱蒼としていて、人を寄せつけないような、墓場のような――だが、それでもイチョウの木々だけは毎年鮮やかな黄色を放ち、そして落葉していく。  一種の呪いのようなもの。  だが貴一にとっては祝いの証である。 「篠宮先生……篠宮先生……」  地面に爪を立て、土を掘っていく。小石に指先が当たろうと、土中の虫に触れようと、貴一は気にも留めない。  一心不乱に掘り進めていくうちに、やがて何か硬いものが現れる。  貴一の指先は、その硬いものが決して小石などでは無いことを、すでに記憶していた。 「こんばんは、篠宮先生。倉科です。倉科貴一です。今年もあなたに逢いに来ました」  貴一が掘った土から出てきたもの、それは綺麗で、美しくて、繊細で――そしてひどく脆い、人骨の一部だった。

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