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第三章【13】※

 ギシっとベッドがきしむ。   「……降りろ、って」  ベッドに乗って距離を縮めてくる遠野に、ダメ元で言葉にした。  彼は困ったような顔をして目を伏せる。  ベッドからは降りようとはしなかったが、それ以上こちらに近づいてこなかったから胸を撫でおろす。 「なんか、暑いです」  独り言のように呟いた遠野は、目が痛くなるような派手なジャージの上を脱いだ。  ふうっと息を吐きながら、Tシャツの胸元をつかんでパタパタと扇ぐ。  思えば、彼も少し息を弾ませ、本当に暑そうだった。  矢神が焼けるように身体中が熱いのは、依田に飲まされた薬のせいだ。  何も口にしていない遠野が同じ状態になるわけがないのだが。  この状況は良くない。  頭から離れない気がかりなこと。それが実際に起こりそうで危惧する。 「矢神さんも暑くないですか?」  無造作に動いた遠野に、恐怖心が芽生えた。  何をするつもりだと、身構える。  だが、そんなことはお構いなしで、肩に触れてきた。 「やめ……ろ」 「ジャケット脱がすだけです。暑いでしょ」  思うように身体を動かせない状態のため、ジャケットを自分で脱ぐのも一苦労する。  不本意ではあったが、彼に支えながらジャケットを脱がしてもらう。    遠野がなるべく自分に触れないよう気遣っているのがわかった。  それでも時おり、彼の指が触れる。そのたびに、ゾクッとする快感に気が狂いそうになるのだ。  ジャケットを脱ぎ、ワイシャツ一枚になったおかげで身体が軽くなったような気もした。  だけど、そんなのはほんの一瞬。  すぐに、熱を帯びた身体が欲しているのを感じた。  ズクズクと中心が疼いている。  このウズウズする熱を吐き出してしまえば、解放されるのか。  未だ思うように動かない身体が歯がゆい。  全身を高揚感が支配する。  ――どうにかしてくれ。  思わず口から出そうになった言葉を飲み込んだ。  身体はいうことをきかないし、自分でも何を口走るかわからない状況に、苛立ちが沸き起こった。 「頼む……出てって、くれ……」    とにかく一人になりたい。  これ以上、遠野の前で醜態をさらしたくなかった。  それなのに、彼はその願いを叶えてはくれない。 「そんな状態じゃ、自分でできないですよね」  遠野がまっすぐと矢神の目を見て言った。  自分の右手を見るが、小刻みに震えていて思うように力を入れられない。   「も、少し、経てば……」  薬の効果が切れたら、身体を動かせるようになるはず。   「それまで、耐えるんですか?」  肯定の意味を込めて頷くが、遠野は納得していないような顔をする。    あたりまえだ。頬を染めて、前を勃たせて、呼吸を乱している状態で、とても耐えられるとは思えないだろう。   「……オレにさせてください」    遠野ならそう言うと思った。  この雰囲気はそう言わざるを得ない。  矢神も彼に頼みたくなるほど、切羽詰まっていた。  だから、早く一人になりたかったのだ。  遠野にこんなことをさせるわけにはいかない。  だが、彼の申し出をはねつけるよりも早く、遠野は矢神の身体を引き寄せた。  両足の間に挟み込んで、後ろから抱きしめるような形にさせられる。 「はな、せ……」  遠野の腕の中から何とか抜け出そうとするも、力が入らず、思い通りに身体を動かせなかった。  そんな矢神を逃さないように、遠野が触れてくるから、ビリビリと快感が走ってうずくまってしまう。  ダメだと頭ではわかっているのに、触って欲しいと身体は彼に預けようと矛盾が生まれる。 「後ろにいるので、オレのことは視界に入りませんよね」  耳元で囁かれて、びくっと首をすくめた。  途端に視界が覆われる。  遠野の大きな左手で矢神の目元を隠してきたのだ。 「目を閉じてくれたら――」  そこまで言って、「あっ」と何かに気づいたように声を上げた。 「これ使ってもいいですか?」  今度は遠野の手が矢神の首元に伸びた。  長い指がネクタイを取り、両手で丁寧にほどいていく。  指がゆっくりと動き、時おり、胸元に優しく触れた。  その度、敏感に打ち震え、呼吸が荒くなってしまう。  遠野の問いへの返答は遅れた。  何に使うのかと尋ねる前に、ネクタイをしゅるりと解いていた。そして、そのネクタイを矢神の目元に巻きつけたのだ。   「……おい」 「きつくないですか?」  いつもなら文句を言って蹴り飛ばすくらいするのだが、思考回路が停止状態で何も答えられず、遠野の好き放題だ。 「女性にされていると思ってください」  こそっとつぶやき、後ろからぎゅっと抱きしめられた。  するりと腕をさすられるとぞくぞくして、勝手に身体が敏感に動いてしまう。 「んんっ……んっ……」    首元に長い指を這わせてきた。じっとりと何度も撫でられ、はぁ、はぁと呼吸を乱すことしかできない。  首から顔の輪郭を撫でられ、そのまま指が左の耳たぶに触れてきた。 「んあっ」  びくりと身体を震わせて、変な声を出してしまった。  耳を触られるのは苦手だった。  肩を上げて耳を隠そうとしたが、遠野の指が耳から離れることはなかった。  耳たぶをクリクリといじったり、耳の輪郭にそって5本の指で触れてくる。 「ふっ……あぁ……」  遠野の手を掴んで離そうと思うが、力が入らないのだ。  コシコシと優しく擦ったかと思えば、今度は耳の穴の入り口を円を描くように触れてくる。  右耳には柔らかいものが触れ、リップ音がした。  ――なんでそんなとこ触るんだよ!  嫌ならやめさせればいい。  矢神が言えば、遠野はすぐにやめるはず。  だけど、その言葉は口から出てこなかった。    いつの間にかワイシャツのボタンは外されていたようで、今度はインナーシャツの上から、手のひらで胸の辺りを撫でてくる。 「……んぅ、んふぅ」  ぎゅっと唇を噛んでいても吐息と共に声が漏れた。  ひたすら撫でまわしたあと、胸の突起を弾いてくる。 「いたっ……」  ジンジンとした痛みに思わず、身体を丸めた。  だが、遠野は、その部分に触れるのを止めない。    胸でも感じる男性がいるのは知っているが、自分は違う。    胸にあった手のひらがじっとりと降りてくる。  そして、インナーシャツをまくりあげ、再び、乳首に触れてきた。  ぐいぐいと指でいじったり、こねくり回したりする。  痛いだけで何も感じない――そう思っていたのに。 「んくっ」  急にゾワリとした衝撃が身体中を駆け抜けた。  もう片方の胸にも指先が触れれば、思わずのけ反ってしまう。   「……くはぁ、あうぅ……」  両方の胸の粒を摘んだり引っ張ったりされ、敏感に感じてしまう。  いくら薬が効いているからとはいえ、そんな自分に驚きを隠せなかった。 「んあっ、や、やめ……」  今まで感じたことのない快感に、身体が震え、頭がクラクラした。  下半身に熱が集中して、股間が痛いほど張りつめている。  遠野の手が胸から下に降りてきて、腹を撫でてきた。  もう片方の手は腰をさすってくる。  ただそれだけなのに、身をよじらせて反応を示してしまう。   「ぐっ、……ああぁーっ」    ――早く触ってくれ!  身体を前のめりにさせて、なんとか快感に耐えようとするが、遠野に身体を起こされ、あちこちまさぐられる。    だが、肝心の部分には触れてこない。  遠野が何を考えているかわからなかった。   『オレにさせてください』と言っていたのは彼なのに。

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