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第三章【14】※
遠野の指が肌を滑る。愛おしむようにゆっくりと。
それはまるで、壊してはいけないものに触れているみたいで。
だけど、矢神にとってはたまったものではない。
薬のせいで敏感になっているから、何をされてもビクビクと反応してしまう。
下半身の熱が集まっている中心部は、痛いほど硬くなっていた。
ここに触れて欲しいのに、願いは叶わない。
――口に出せってことか?
ふうっ、ふうっと息をして呼吸を整えようとしたが、落ち着くはずもなく。
遠野には足の付け根を撫で回され、したくもないのに腰を突き出してしまう。
目隠しで状況がわからない。だが、自分が滑稽な姿をしているような気がした。
――焦らしプレイかよ!
遠野がこの状態を楽しんでいるんじゃないかとさえ思えてくる。
触ってもらえないなら、一人で悶えている方がいい。
遠野にだけは、こんな姿を見られたくなかった。
何もかもが苦しくて涙も出てきていた。
だけど、それも目隠しのおかげで気づかれはしないだろう。
そう思った瞬間、下半身の硬くなっている部分に手を乗せられた。
「うあっ……」
なんとも情けない声が出る。
視覚で確認できないせいか、快感よりも恐怖の方が勝っていた。
遠野のてのひらが熱いのか、自分の身体が熱いのか、もうよくわからなかった。
乗せられていただけのその手がゆっくりと動き出す。
恐怖心を抱いていることに気づいているのか、優しく宝物を扱うかのように、てのひらでやわやわと撫でてくる。
「は、ぁ……っ、う……っん……」
恐怖が快感に変わるのは早かった。
それは薬のせいなのか、遠野の触り方が気持ち良かったからなのか。
もっと触って欲しいと腰を押しつけていた。
カチャカチャと金属音が響いてくる。矢神のスラックスのベルトを外しているのだ。緊張に身体がこわばった。
今度は、ジジっとファスナーを下ろす音が耳に入ってきた。
期待でゴクリと喉を鳴らしてしまう。
自分の呼吸音と心音がうるさかった。
まだか、まだか、と気持ちが焦る。
「ふぅっ、んんっ…」
下着越しに触れられると、思わず腰を揺らして遠野の手に擦り付けていた。
先ほどよりも快感が増しているようだった。直接触られたらどうなってしまうのだろう。
下着の中はカウパーでぐちょぐちょになっているのがわかった。
硬く熱を持ったその部分を形をなぞるように指が這う。まるで遊ばれているかのようで。
じれったい触り方に、もっときちんと触って欲しいとそのことだけが頭の中をぐるぐるする。
口にすれば、きっと遠野は言った通りのことをしてくれる。だけど、そんなことは自ら言えるわけがなかった。
いくら薬でおかしくなっているとはいえ、その意識だけははっきりしていた。
股間から手が離され、矢神のスラックスを下着ごと下ろす。
下半身が空気に触れて心もとなかったが、すぐ次の刺激で身体が熱くなるのだ。
「あぅ……あぁ…っ」
溢れたカウパーを竿全体に塗り付けながら扱いてきた。ぬちゃぬちゃと濡れた音が耳について離れない。
優しく、時には激しく、竿の根元から亀頭まで上下に扱いていく。
快感に腰が震え、だけど見えない状態が怖くて、止めさせるように遠野の手に自分の手を添えた。だが、力が入らなくてその行為は何も意味を持たない。
「や、め……」
身体は正直で、怒張がさらに増してドクンと脈を打つ。
垂れているカウパーのおかげでいい具合に滑りをよくする。扱くペースが徐々に速まった。
「んっ、あ、やぁ、」
ぐちゅぐちゅと音を立てて扱かれ、片方のてのひらは鬼頭を包み込んでくる。こねくり回すように手を動かされ、淫らに腰が揺れた。
「ふっ……ん、はっ……」
すぐに射精感が高まった。
――こんなの、早すぎるだろ。
普段とは違う状態だから仕方がない。それでも、早漏だと思われるのは嫌だった。
何とか、彼が扱く刺激から逃れようと動くが、ぐっと力を入れて固定されるため、どうすることもできない。
「…っ! あっ…」
必死に耐えていたが、イかせるために遠野の動きが速くなる。
はち切れんばかりの陰茎を強めに擦るのだ。
限界に近い。これ以上は無理だ。
「はっ、ん…っ。ま、て……」
射精したい。だけど、まだ駄目だ。
矛盾が頭の中を駆け巡る。
ダラダラと漏れる我慢汁が滑りをよくして、さらに刺激が伴う。
「んあっ、はっ…あぁ、やぁ……」
ぐちゅぐちゅになっている鈴口を指で刺激してきた。容赦なく弄るので声が抑えられなくなる。
背中越しの遠野に身体を預け、息を荒げることしかできない。
快感を逃すべくシーツを握りたかったが、生地をなぞるだけ。
「や、ぁう…ん、はっ、あぁ、うぅっ」
遠野の腕に指先で触れた。
掴んで止めさせたい。
でも、気持ちがいい。自分でやるのとは大違いだ。
「んん…、うぁ、あっ…ああ……」
耐え抜こうとしていたのに、強烈な快感の波がこみあげてきて。
ガクガクと腰を揺らして、耐える間もなく白濁を吐き出した。
全身の力は抜け、恍惚としながら荒い息を繰り返すだけ。
身体は熱かった。汗が流れ、精液を垂れ流し、あちこちがべたべたとする。
起き上がる気力はなかった。後ろの遠野に身体を預けたままだ。
出してしまったから楽になれる。
これで落ち着く――そう思っていたが、遠野に握られた矢神のものは、おさまるどころかさらに硬くなっていた。
薬のせいなのは理解してる。
もう自分の意思とは関係ない。
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