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第三章【16】※

 全身が敏感で、肌に少し触れられるだけで声を上げてしまう。  屹立しているそれを刺激されたらすぐに射精した。  何度も繰り返すたびに怖くなる。    遠野の胸に身体を預け、快感に溺れてただひたすら喘ぐ。  淫らな状態をさらけ出している自覚はあったが、なんかどうでも良くなっていた。今は、ただひたすらこの快感を味わっていたかった。  我を忘れて喘いでいるせいで、口の端から唾液がこぼれていたが拭う余裕もない。  それを見かねてか、遠野の指が口元に触れた。唇の感触を確かめているかのようにゆるりと何度もなぞっていく。  指先が往復するたびに、甘美な刺激に打ち震えた。 「あ……やっ、あぁ……」  快楽に声を上げれば、口内に指を差し入れられた。 「んっふぁ!…な……」  思わず口を閉じて指を噛んでしまいそうになり、慌てて力を緩める。  噛まないように口を開け続けるのは、結構きつい。  遠野の方はそんなことを一切気にしていないようで、口内の指は好き勝手に動き始めた。  長い指が頬の内側をなぞったり、舌を指先で擦ったりする。 「んあっ……はぁ…」  今度は指を二本に増やされ、爪で舌を撫でたかと思えば、挟んで揉んできた。溜まった唾液のせいでくちゅくちゅと淫らな音が立つから羞恥と快感に悶える。 「…っはぁ……ふっ…」  上顎をなぞられると腰が跳ね、体の芯がじんじんと疼いた。   ――下も触って欲しい。  いつの間にか陰茎から手は離され、じれったい思いをしていた。  ――もっと気持ちよくなりたい。  遠野は、どんな風にしてくれるのか。  今までに感じたことのない快楽に導いてくれるかもしれないと期待してしまうのだ。  肌を撫でながら耳を触ったり乳首を弄ったりしてくる。  遠野は、性器だけじゃなくあらゆるところに触れてきた。  どこもかしこも性感帯になっているみたいで、身体をくねらせて悶えまくってしまう。 「はああっ…んううっ!」  遠野の手が待ち望んでいた陰茎に触れられれば、身体は快楽と歓喜に打ち震えた。だが、わざとなのか裏筋をゆっくりと撫でるだけ。足りなくて腰を激しく振ってしまう。 「はっ、はっ…んっ…、うあっ」  今度は亀頭を弄ってくる。指先で触れるか触れないかのタッチで、もどかしい。そうかと思えば、射精を促すように竿を一定の速さで扱かれた。 「あっ、んんっ……」  今は、少し擦られただけで出してしまう状態だ。  しかし、何度射精を繰り返しても一向におさまらなかった。 「ふっ……うっ…あ……やっ、あぁ……」    気持ちいい。おかしくなる。もうやだ。  遠野の手や服、シーツも精液でベタベタになっていることだろう。  矢神は、そんなことを気にしていられないほど欲情していた。  遠野が触れる指、手のひらを動かすたびに快感を得ている。 「あぁっ……や、また、イ…き…そ。たす、けて……」  気づけば、遠野は矢神に触れている最中、一切言葉を発していなかった。  耳に届くのは自分の吐息とみっともない喘ぎ声。そして、精液でぐちょぐちょになった性器が擦られるたびに卑猥な音が響く。  ただ、自分ではない呼吸を感じていた。  最初は快楽に夢中でわからなかったが、乱す呼吸を無理して抑えているような息遣いが伝わってくる。 『女性にされていると思ってください』  遠野は自身で言ったことを徹底しているのだ。   矢神にとっては、女性に触られているとは思えなかった。  撫でる手のひらは大きく、優しく触れる指はゴツゴツしている。  そして、ときおり肌に触れるさらさらとした髪からは普段嗅いでいる整髪料の香りがして、遠野だと認識させられた。  しかも矢神の尻の辺りには、さっきからずっと硬いものが当たっている。  それは男性だと象徴するもの。視覚で確認しなくてもわかってしまう。  腕の中で好きな相手の射精を促す。そのたびに身体をのけ反らせ、よがって喘ぐ。何度も絶頂を迎える姿をひたすら耐えて見守るだけ。  遠野がどんな気持ちでことをこなしているのかは、今の矢神には想像できなかった。 「あっ……、んんっ、だ、だめ……」  矢神がイキそうになるのを見計らって、遠野は熱く硬い性器を擦るスピードを速くする。 「やあ……ああっ、はぁ…あっ、んぁ、ああ…っ」  最初の時より矢神は喘ぐ声を抑えることはせず、垂れ流しだ。 「あ……、ま、た、イク、出……る」  何度目の射精だろうか。  もうほとんど精液は出ていなかった。  矢神はガクンと力が抜け、倒れ込むように意識を失う。 「矢神さん!」  その時、心配する声で遠野に名前を呼ばれたような気がした。

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