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4、除霊の一環
「泰ちゃん!! 泰介!!」
走って十分ほどの距離に、泰介の下宿はある。
汗だくだくでたどり着き、ぜいぜいはぁはぁと息を乱しながらドンドンドアを叩いてみるも、返事はない。
だが、もしやと思ってドアノブを押してみると……ドアが開いた。
しめたと思い、俺はバン! と勢いよくドアを開け放ち、玄関の中へと踏み込んだ。
入った瞬間、ずもも……と重い空気が俺の足元に這い寄ってくる。部屋の中は相変わらず薄暗く、ほんの数メートル先にあるはずの泰介の部屋の中が、いやに暗く見えてゾッとした。
足が竦みそうになるけれど、ここで引き下がるわけにはいかない。俺はぐっと拳を握り締め、勢いよく泰介の部屋へと飛び込んだ。
「泰介!! 大丈夫か!?」
「……う、っうう……」
薄暗い部屋の中、泰介のうめき声が聞こえてきた。どの程度ましになるかはわからないけれど、部屋の中に澱んだ陰気を払うべく、俺はシャッとカーテンを開いて部屋の中に光を入れた。
すると、ベッドの上で首元を押さえ、苦しげに身を捩っているパンイチ姿の泰介が目に飛び込んできた。
泰介が苦しんでいる。
その姿を目の当たりにして、全身の血が足下からずべて抜けていってしまうような恐怖を覚えた。
泰介を失いたくない——その感情が腹の奥で爆発する。
すると、視ようともしていないのに、泰介の上にのしかかっている黒い影の姿が視認できるようになって——。
『ハァハァ……かわいい……ハァ、ハァ……かわいいねぇ……』
白いブリーフ一枚だけ身につけた小太りのおっさん霊が、上半身裸の泰介の上にまたがってへこへこと腰を振っている……。
長く伸ばした舌でぺろぺろと泰介の乳首を舐め、泰介の股ぐらあたりに自らのそれをこすりつけるようにして腰を振る中年オヤジの霊だ。
色んな意味で気が遠くなりかけたが、ふつふつと込み上げてくるのは純然たる怒りだった。
「……オイ……コラオッサン……俺の泰介に何してくれてんねん……」
地底を這うがごとく低い声で、俺はオッサン霊を睨みつけた。
すると、オッサン霊はちら、と俺のほうを見た。が、俺に大した力などないとわかったのか、ニタニタと笑いながら、これ見よがしに泰介の乳首を旨そうに舐める。そのたび、泰介は「ぅ……ぁ」と苦しそうに呻いた。
まさか、オッサン霊に感じさせられている——……いや、そんなわけないと思いたい。だが顔は火照ったように赤く、呼吸も速い。これはまずい、早く助けないと、泰介の貞操と命の危機だ……!!
「オォォイ!! 聞こえてんねやろ!? とっととそいつから離れんかい!」
『ぐふふ……? ぼくはこのこに招 ばれた。招ばれたんだ……ぐふふふ……』
「はぁ?! おまえみたいなキモデブ霊、こいつが呼ぶわけないやろがい!!」
『よばれたんだ……えっちなことがしたいって、よばれたんだ……』
会話は成立しない。オッサン霊は俺の顔を見ながら泰介の股間をまさぐり、ニチャァと笑った。
カッチーン……と、頭の中でなにかが弾ける音がした。
「ベッタベタしてんちゃうぞこのハゲがぁぁ!! 俺かてまだ触ったことないねんぞ!!」
ガッとボディバッグからお札ファイルを取り出し、俺は一足飛びにオッサン霊に飛びかかった。
そして、ハリセンでも振り回すような要領で、バシィィッ!! とオッサン霊の身体をファイルで引っぱたく。
するとオッサン霊は『ヒギィィィ!!』と悲鳴を上げ、さっと泰介から離れた。俺はすかさず利き手の人差し指と中指を立てて手印を結び、真言を唱える。
「祓え給い、清め給え、神ながら守り給い、迷える魂を幸え給え……!!」
神に救いを求める真言が、今このオッサンにふさわしいのかわからない。気分的には、いますぐ地獄へ送ってしまいたいところ…………だが、この霊だって、行き場を失った彷徨える魂だ。
ここがあの霊のあるべき場所ではない。正しい場所へ送り届け、天の采配に任せるのが筋。
ブリーフ姿のオッサン霊がキラキラと消えていくのを見届けたあと、俺はすぐさま泰介の様子を窺った。
「泰介!! おい、大丈夫か!?」
「んん……ぁ……り、倫……?」
「あぁ……よかった、意識あんねんな! はぁ……焦った」
ベッドのそばに膝をつき、俺は安堵するあまり深い深いため息をついた。だが、泰介は起き上がってくる様子がない。
怪訝に思って顔を覗き込んでみると、泰介はいまだに「はぁ、はぁ……」と苦しげな呼吸をしている。
「泰ちゃん!! キモデブ霊は追い払ったで!!」
「キモデブ……?」
「あー……っ、いやなんでもない! どした、まだ苦しいん?」
「……わかんねぇ……身体、だるくて、重くて……動かねぇ」
泰介はそう答え、苦しげに目を閉じた。熱っぽい表情はぐっとくるほどに淫らに見え…………るが、今はそんなことを言っている場合ではない。
一体どうすればいいだろう……と考えていると、もぞ、と泰介が太ももを擦る衣擦れの音が聞こえてきて、俺はふと股ぐらのほうを見やる。
すると、迷彩柄のボクサーブリーフの股間が、隆々と大きく膨れ上がっていて……。
「えっ……めっちゃ勃ってるやん!!」
——あのキモデブ霊、俺の泰ちゃんになんてことを……!!!
ムカムカ〜〜と怒りが込み上げてくるが、もうここにあのオッサン霊はいない。それに怒っている場合でもない。
「泰ちゃん……! ごめんな、俺が遅くなったせいで……!!」
「ん……俺、変な夢、見た……」
「夢? どんな?」
「お前が俺の上に乗っかって……なんか……色々エロいことするやつ……」
「え、俺?」
ふと、オッサン霊の言葉を思い出す。『えっちなことがしたいって、よばれた』と言ってはいなかっただろうか?
そして、泰介の意識の中で、あのオッサンの姿はこの俺に見えていたということだ。あのオッサンが俺か……と思うと若干複雑な心境ではあるが、それはつまり、泰介は俺とエッチなことをしたいという妄想に囚われ、色情霊であるあのオッサンを呼び寄せたという解釈になるが……。
「……お、俺とエッチなことしたかったん……?」
「っ……ち、ちげーよっ!! で、でも……こないだお前、ここで俺のこと好き好き言いながらオナってただろ……」
「う。それに関しましては本当に申し訳ありませんでした」
「あん時のお前、めちゃくちゃエロくて……。それに……」
「それに……?」
「俺……あんなふうに好きって言われんの、初めてで……」
「泰ちゃん……」
と、そっと剥き出しの肩に触れてみると、泰介は「あっ……」とうめいてビクンと肌を震わせた。俺はびくっとして、弾かれたように手を離す。
だって、だってこれ、まるで感じているかのような反応だ……俺はごくりと唾を飲み下す。
——……うそやん、めっちゃエロ…………じゃなくて!!
「……あのな、泰介。よう聞いて」
俺は一つ深呼吸をして、泰介の顔をじっと見つめる。
ここ最近の泰介の不調は、墓地のそばを浮遊している霊たちを呼び集めてしまった影響だと。
「家族を懐かしく思ったり、世話を焼いていたちびっ子たちのことを心配したり、気にしたりしてたんちゃう? ちょっとホームシック気味になってたんやろ」
「ホームシック……」
「それにな、今身体が熱くて妙な気分になってんのは、キモデ……色情霊にっていうんに憑かれてたせいやねん。小さな妄想のタネが大きく大きく膨らんで、やらしい気分にさせられてしもてるってこと」
「……ってか、さっきから霊って……いみわかんね」
「そらそうやんな……。けどな、俺そういうのわかんねん。実家、小さいけど神社でな。うちの親は、こういうことに困ってる人を助けたりしてんねん」
「……ふーん……」
理解してくれたのだろうか。泰介はとろんとした目を重たげに閉じ、「……ってか、妄想って……」とつぶやく。
「ってことは……お前のせいじゃん。俺にエロいもん見せつけて、しきじょうなんとか……っていう霊に、取り憑かれさせてさぁ……」
「それはそうやけど……ってか、キモくなかったん? あんとき、ここで俺がしてたこと……」
「普通に考えたらありえねーけど……気持ち悪くはなかった。……お前、顔も身体も綺麗だし。それに……あんな声で名前呼ばれたり、好きって言われたら、俺だってどうしたらいいか……」
「泰ちゃん……!」
最悪のケースを色々と想像していただけに、泰介のその一言は純粋に俺を救った。
気持ち悪いホモ野郎と蔑まれ、もう大学で顔を合わせることさえ嫌がられると思って絶望していたが、泰介は俺にエロスを感じてくれていたというのだから……。
「……ほな、あの……泰ちゃんが楽になるように、ちょっと、触ってもいい?」
天を突くように布を押し上げているこの様子を見るに、一度吐き出さないと苦しそうだ。身体にこもった熱を抜けば、泰介はもう少し落ち着くかもしれない。
「触るって……?」
「ええええーと……まぁその、除霊!? 除霊の一環みたいなな! 泰ちゃんを助けるための行為や! 決してやましい気持ちはない。せやし、ごめんやで……!!」
「あっ!?」
そっと手を伸ばし、俺は泰介の股間に触れパンツを下げる。すると、ぶるりと固く固く反り返った泰介のペニスが俺の顔の前に露わになり、思わず「ぁん……めっちゃおっきぃ……♡」と濡れた声が漏れてしまい……。
「…………じゃなくて!! 俺はただ!! 泰ちゃんを楽にしてやりたいだけやねん!! 一回出したら楽になると思うし!! 身体も動くと思うから!!」
「……わ、わかったよ……頼む」
「お、おう……! 任しといて!」
おずおずと、泰介の屹立を握ってみる。
裏筋では太い血管がドクドクと脈打ち、大きさも太さも見事すぎる逸物だ。竿も、カリ首のくびれ亀頭の先端までの形も、全てが男らしくてカッコよくて、無意識のうちにじわじわと唾液が込み上げてくる。
「……泰ちゃん、ここ、しんどいやんな? いつでも出してええからな」
「っ……わ、わかったって……はぁっ……」
きゅ……と下から上へと扱いてみると、とぷ……と鈴口から透明な体液の滴が膨らんで溢れた。その透明な滴さえも貴重な気がして、こぼしてしまうのがもったいなくて、俺は吸い寄せられるように泰介の先端へ唇を触れていた。
「……ぁ、ぁ! ……倫っ……」
「ん……ん、これが……泰ちゃんの味……はぁ……」
唾液と絡めあったそれを先端に塗り広げるように、くっぽりと口の中へ迎え入れる。青くて、苦くて、しょっぱいような味が無性に愛おしく、俺は舌を使って泰介の先端をねっとりと愛撫した。
「うぁ……はっ……」
気持ちよさそうに、泰介が吐息をこぼした。その反応に気を良くした俺は、さらに深くまで、泰介のペニスを口内へと引っ張り込んでみる。
「ぁ……ぁっ……ぅうっ……」
泰介の声に色香が増し、余裕がなさそうに身を捩る。
俺の口淫は気持ちがいいだろうか。感じてくれているとすごく嬉しい。俺はさらに身を乗り出して、頭を上下させて泰介にフェラチオをした。
口を窄め、喉を締めながら、泰介の怒張に舌をねっとりと絡ませていると、ずくんと腹の奥が切なく疼き始めた。俺のペニスにもすでに熱が滾っている感覚があり、狭いジーパンの中で刺激を待ち侘びている。
——泰ちゃんのコレ、俺の口の中でどんどん大きくなって、破裂しそう。……挿れてほしい、ナカ、ぐちゃぐちゃに突かれたい……。
あさましく泰介のペニスを咥えたまま、俺は腰をもぞつかせてジーパンの前を寛げる。初めて目の当たりした泰介のエッチな反応があまりにもいやらしくて、これ以上我慢ができなかった。
「ん、ん、っ、ん……」
泰介の脚の間に座り込み、股ぐらに顔を突っ込むようにして熱心にフェラチオをしながら、俺はすっかり硬くなってしまった自分のそれを扱いた。
だが、それでは全く物足りない。
もっともっと、猛々しくナカを暴き、深くまで抉ってくれるモノを求めて、内壁がひくひくと物欲しげにひくついている。
——……もうむりやぁっ……。コレ……ナカに、ほしいよぉ……っ!!
「は……っ……は……」
「泰ちゃん……俺フェラ下手やし、こんなんじゃイけへんよね?」
「いや、俺、もうちょいでイケそうだけど……。って、倫おまえっ……なにやってんだよっ……」
「んんっ……ぐ、ごめん……だって、がまんできひん……」
泰介が身じろぎした拍子に、先端あたりを舌で舐め転がしていたはずのペニスが、口の中からぬるんと出て行ってしまった。ソレをを唇で追い求めようとしていると、起き上がった泰介に肩を掴まれてしまう。
そして泰介に、フェラをしながら自慰しているところを見られてしまった。
「……お前も、ガチガチじゃん。フェラさせられてそんなになるわけ?」
「させられてへんもん。俺……泰ちゃんのこと、大学入ったときからずっと好きやもん。こういうことだって、してみたかったし……」
「……はぁ?」
俺はするするとジーパンを脚から抜き、パンツまで脱いでしまう。
そして、泰介の脚の間で、がばりと土下座をした。
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