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第36話
結局、索冥にも診てもらったものの、指輪を取り出すのは難しいという結果になった。場所が場所なだけに、下手に触ると何が起こるか分からないということで、そのままにしておくしかない。
「そうなると、やはり龍とその取り巻きが何て言ってくるか、だな……」
鷹使は思案顔で言う。索冥もそうだね、と苦笑していた。
「でも、結果的に五大勢力のうち、四つは味方にできた、だろ?」
「だっ、誰が味方だ……っ、大体君は、命を狙われているというのに楽観的過ぎる……!」
緋嶺の言葉に、索冥は案の定慌てだした。からかうのは楽しいと思うけれど、横で鷹使が睨んでいるので、程々にしておこう。しかし索冥はまだ視線を泳がせながら、話を続ける。
「だっ、だから……何かあったら連絡しなよ……」
そうやって索冥が差し出してきたのは名刺だ。そこには仕事用の名刺らしく、【整体・足つぼ・マッサージ 樹木 索冥】とある。携帯電話らしき番号も載っており、まじまじと眺めていると、鷹使にそれを取り上げられた。
「用がある時は俺から連絡する」
「……」
鷹使があからさまに不機嫌な声で言う。しかし索冥は知らん顔だ。
「緋嶺、指輪を使ってコイツを懐柔したのか?」
なぜこんなにもお前に興味関心を持つ、と鷹使は緋嶺に聞いてきた。それは本人に聞けよ、と思うけれど、索冥は答えてくれるだろうか?
「……君が僕に助けを求めた時……」
索冥は少し恥ずかしそうに話し出す。
相手を一途に思う事はこんなにも美しいのか、と思ったと言う。人ならざるものの世界では、打算や取引での繋がりが主だから、そういった感情は久しく忘れていたと苦笑した。
「自分が死なない為に媚びへつらうし、頂点を取りたいと戦争を起こすものばかり」
僕はそんな世界に少し嫌気がさしていたのかも、と索冥は言った。だから緋嶺に関しては肯定も否定もしない、関与もしないと。
「元々麒麟は人間を癒すことしかできないしね、利用される事はそんなに無かったんだけど……」
それでもそんな世界を憂いて、身体を弱らせてしまう仲間が沢山いた、と索冥はお茶をすする。どうやら麒麟は病弱だけでなく、ストレスにも弱いらしい。だから事なかれ主義なのか、と緋嶺は納得した。
「……僕もせいぜい、あと十年かそこらの命。君みたいな奴がいたら、少しは退屈せずに済むかなって」
そう言えば麒麟は短命だと聞いている。どれくらい生きられるのかと聞いてみると、平均四十年、長くて五十年だという。平均寿命からして索冥はどうやら三十代らしいけれど、その美しさと若々しさは十代後半にしか見えない。
夕方までしばらく索冥と話をして、緋嶺たちは自宅に戻る。着いた頃にはすっかり日が落ちてしまっていた。
帰り際、何か言いたそうな索冥に、友達になってくれと言うと、目を白黒させて驚いて慌てていたけれど、消え入りそうな声でうん、と返事をもらった。
自宅に入るなり鷹使が口付けを求めてくる。緋嶺は最初は受け入れたものの、しつこく何度もしてくるのでストップをかけた。
「ちょっと……アンタ、最近嫉妬しすぎ」
出会った頃はそんな風には見えなかったのに、最近彼は緋嶺の事を好きだということを隠そうともしない。セナや索冥の登場で、より顕著になってきているので、緋嶺は釘を刺す。
「……五大勢力を手に入れたところで、龍のロンは簡単には意見を変えない」
一度緋嶺を殺すとなったらやる男だ、と鷹使は緋嶺を抱きしめる。死なせたくないのは分かるけれど、どうしてこれほどまでに心配しているのだろう?
「その……ロンってやつはそんなに強いのか?」
「……」
緋嶺の質問に、鷹使は答えなかった。それを緋嶺は肯定と受け取り、鷹使を抱きしめる。
「大丈夫。俺は何があってもアンタが好きだし、アンタだけは傷付けない」
そう言って、緋嶺は鷹使に軽くキスをした。しかし鷹使は抱きしめたまま離してくれないので、彼が満足するまでそのまま大人しくしておく。
「……」
「さ、メシ食って寝よう?」
何も言わない鷹使に緋嶺はそう言うと、彼は緋嶺にもう一度軽くキスをした。
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