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第40話
それから一週間後、緋嶺はセナと索冥とロンのお墓を、家の敷地内に建てた。大きめの石を置いただけの墓石だけれど、気持ちが大事だと緋嶺は手を合わせる。
「緋嶺、そろそろ夕飯にするぞ」
「うん……」
この一週間で、人ならざる者の世界も大きく動いた。
鷹使が天使の長として復帰し、そして全族長に声明を出したのだ。
天使族が責任を持って緋嶺の管理をし、世界の均衡を崩さないよう約束をする、と。もしその約束を違えた場合、緋嶺の命とヒスイの命は好きにすると良い、と。緋嶺が五大勢力のうち四つの族長を倒したとあって、異論を唱える者はいなかった。
おかげであれから、生活は平和そのものだ。
「え? 今日ステーキ? どうしたんだこれ?」
食卓に並んだ料理を見て、緋嶺は声を上げる。鷹使はニヤリと笑った。
「そろそろ腹が減る頃だと思ってな」
「……」
緋嶺は口を噤む。【契】を自分で切って以来、鷹使とはそういう行為はしていない。自己嫌悪でそんな事をする気分じゃなかったし、そもそもの食事の量も減っていたのだ。ロンの血を飲んだからか、力は安定しているけれど、またいつ暴走するかと思ったら身体が震えた。
「あの、鷹使……」
だったら、緋嶺はこっちの方法がいい、と鷹使の首に腕を回し、彼の薄い唇に軽く口付ける。
「定期的に肉を食べるより……こっちがいい……」
恥ずかしくて彼の胸に額を付けると、ふわりと頭を撫でられた。そしてクスリと鷹使は笑う。
「分かった。メシ、食べてからな?」
緋嶺は小さく頷いた。
「おい、何で緊張してる?」
夜も更けていつもの就寝時間。緋嶺と鷹使は一つの布団に寝ていた。思えば今まで鷹使に強引にされるばかりだったので、予告してするなんてと身体に力が入っていたのだ。
「いや、あの……、時間があると何か逆に身構えちゃったというか……」
しかも裸で寝るとか、と言った緋嶺の様子に、鷹使はクスクスと笑う。
「じゃあ、お前は何もしなくていい。俺が全部してやる」
「そ、それっていつもと同じじゃ、……っ」
反抗しようとした緋嶺の口は塞がれた。鷹使の薄い唇が緋嶺の弾力のある唇を食み、軽く吸われる。
「いい。気持ちよくしてやる」
「とか言って、いつも無理やりコントロールしてイカせるじゃないか……」
「今日はしない」
会話の合間に軽いキスが続き、緋嶺は緊張の糸を解いた。鷹使の首に腕を回すと、鷹使の舌が口内に入ってきて、緋嶺のそれと絡める。
「……ん」
するとあの、蜜のような甘い味がする。その味がもっと欲しくて緋嶺は自ら舌を出すと、鷹使は舌先でチロチロと緋嶺の舌を舐めた。
「……あま……」
「美味しいか?」
「うん……」
素直に頷くと、鷹使は再びキスをしてくれる。そして彼の手が緋嶺の肌の上を滑り、胸の粒を指で弾いた。ひくん、と肩を震わせるとじわりと胸と下半身が熱くなるのを感じて、恥ずかしくなる。
「ここ感じるか?」
鷹使がそこを何度も弾きながら聞いてきたので、思えばそこを触られるのもそんなに無かった、と思い返した。返事をすると、自分が思ったよりも甘い声が出たので、耐えられなくなって笑ってしまった。
「……何だ、せっかく丁寧にやってやってるのに」
「や、だって……今までだってムードとか全無視だったから」
慣れなくて、と言うと、鷹使はほう、と右手を下腹部に当てた。ギクリとした緋嶺は、慌てて鷹使の右手を取ろうとするけれど、遅かった。
「やっ、それは……! うぁ……っ!」
一気に性感を高められ、緋嶺は自分の性器が一気に硬くなるのが分かった。手を離した鷹使は、はぁはぁと息を乱す緋嶺を楽しそうに見下ろしている。
「今日は、しないんじゃ、なかったのかよ……っ」
「お前はこっちの方が好きみたいだからな」
結局こうなるのか、と緋嶺は性器に触れられ、呻きにも近い声を上げた。そして鷹使の長い指が、緋嶺の弱い裏側の先端辺りを擦る。
「……ッ、んん……ッ!」
思わず両手で口を塞ぐと、顔が熱くなって一層声と呼吸が熱を帯び、覚えのある感覚に待ったをかけた。
「た、鷹使……それ以上やったらイッちゃう、から……」
鷹使が性感をわざと高めたせいで、すぐに達してしまいそうだった緋嶺は、彼の手を取る。しかしそれは緋嶺だけじゃなかったと、視界に入った鷹使の熱くなった切っ先を見て、さらに顔が熱くなった。
「……どうした?」
「……いや……」
顔を覗いてくる鷹使から視線を逸らすと、彼はああそうか、と口の端を上げる。そして緋嶺の両腿を上げ、怒張を後ろに当てたのだ。
「これが欲しかったか。悪いな、気付かなくて」
「いや! そんな事一言も言ってないし!」
どうしてそうなる、と緋嶺は狼狽える。確かに見てはいたけど、本当にそんな気持ちで見た訳じゃない。
「……本当に? 繋がったらどうなるか、想像もしなかったのか?」
そう耳に吹き込まれ、緋嶺の身体がビクリと震えた。それと同時に後ろがヒクヒクと痙攣する。まるで早く入れてと言わんばかりの反応に、緋嶺は恥ずかしくてじわりと涙が浮かんだ。
「緋嶺、どうする?」
意地悪な質問をしてくる鷹使。緋嶺は彼の首に腕を回すと、はぁ、と息を吐き出した。それは思ったよりも甘く、これじゃあ誘ってるみたいじゃないか、とまた恥ずかしさで身体が熱くなる。
「…………来いよ……」
鷹使が軽く笑った。けれど彼の怒張は更に張り詰めて、緋嶺の中にゆっくりと入ってくる。
「……っ」
楔を全て埋め込んだ鷹使は、緋嶺に軽くキスをした。あれだけ尊大だったくせに、痛くないかなどと気を遣う言葉をかけてくるから、緋嶺は彼を抱き締める腕に力を込める。
「……繋がった? のか?」
「いや、俺が抑えてる」
どうして、と問う前にあの、何かが吸い付いてくっつく感覚がする。それと同時に緋嶺の身体が弓なりにしなった。
「うあ……っ! ああああっ!」
いきなり脳天を突くような快感が緋嶺を襲い、視界が真っ白になる。ガクガクと足が震え、鷹使を思わず恨めしく見た。しかしそれも一瞬の事で、緋嶺は甘い嬌声と共に白濁した液体を、限界を超えた怒張から吐き出す。
「あ……っ、たか、鷹使……っ!」
繋がっているだけなのに、勝手に震える身体をどうにかしたくて鷹使を見ると、鷹使も苦しそうに緋嶺を見ていた。その顔が愛おしくて彼の両頬を両手で包むと、鷹使は息を乱したまま軽く口付ける。
「……良いか? 緋嶺」
緋嶺はその問いに声もなく頷く。
「お前は、ずっと俺の隣で笑ってろ。それが、お前の存在意義だ」
鷹使は切なそうに顔を歪め、緋嶺の目尻を拭った。どうやら泣いていたらしい。そして、俺は誓う、ともう一度、緋嶺に口付けた。
「お前を一生護ってやる……幸せにしてやる……」
緋嶺はまたうんうんと頷いた。とにかく身体の熱をどうにかしたくて、自分から動いて、とお願いしてしまう。
「天使の、婚姻の証だ。……異論は無いな?」
「ない……ないから、早く……っ」
その後、二人は感情のままに互いを求め合った。緋嶺はもう、何がなんだか分からなくなって、おかしくなる、と何度も意識を飛ばす。それでも鷹使は緋嶺の全てを知りたい、とでも言うようにあらゆるところを撫で、口付けし、舐め、緋嶺を翻弄した。彼は一度では気が済まなかったらしく、緋嶺が本気で無理と言うまで二人の営みは続く。
こんなにも誰かに求められたのは初めてだ、と緋嶺は情けなく泣いた。それでも鷹使はからかいもせず抱き締めてくれるから、嬉しくてまた泣いた。
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