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第38話

 そして次の営業先。今回はフードジャンゴの注文サービスを利用しているお店を回ることになった。  カラオケや漫画喫茶などから食事を注文できるサービスであり、それをフードジャンゴが配達している。  その提携先をじわじわ広げていくのが古田たちベクトルユーの営業たちが手助けしているのである。 「たくさんいるフードジャンゴの配達員がカラオケとか漫喫利用者の食べたいご飯をお店から出来立てを運ぶ。多岐にわたるメニューをカラオケ店や漫喫で作るとなるとどうしてもレトルトになる。中にはフードジャンゴを利用することによってキッチンを構えなくてもよく、人件費や光熱費を抑えることができる」  仕事になると古田はシャキシャキっとしだす、そのギャップに隣で話を聞く寧人(よしと)はさっきまでの甘えん坊のリンとは違うと心中でニマニマしてしまう。  導入を検討している店主に対しての畳み掛けるようなトーク、古田はとても饒舌にわかりやすくしていく。 「のちのち……鳩森(はともり)、お前もしなきゃダメだぞ」 「それは営業の古田さんのお仕事だし、僕ができたらお仕事なくなっちゃいますよ……あなたたちの」  仕事の時は鳩森と呼び名が変わると何故か少し胸が痛む寧人だが、今はSEであるのに営業先を回っている理由がわからなかった。  そばでパソコンに営業先の反応をメモしたり、パソコンで提案画面を見せたりするのだがメインは古田である。 「ただの営業補佐させてるわけじゃない。お前もいく先は営業もできるようにさせろって上から命令が来てる」 「えっ、僕が営業?!」  寧人はうろたえる。自分はずっとSEとしてやっていくつもりだったのだと。 「たしかにSEだけでいくのもいいが、ステップアップして営業もできると人間としても成長するしな、給料も上がる、役職も上がる。……僕は教育係みたいなやつなんだよ」  すると古田がカバンから小さな箱を取り出し、寧人に手渡した。  寧人は見たことのない箱になにが入ってるのだろうか、恐る恐る開けると自分の名前の入った名刺が出てきた。しかも何枚も。 「め、名刺ぃいいいい?」  初めて手にする名刺。オフィシャルな名刺。持つ手が震える。 「そこまで喜ぶことか? まぁ教育係って、あっちの方も教育させてやったが……まだまだだな」 「はいっ?」 古田はじろっと寧人を見る。 「よし、次行くぞ」 車の中では初めてもらった名刺をニマニマしながら見ている。  と、ニマニマしている間に見知らぬ場所に着く。しかもさっきの繁華街でなくてなんかアンダーグランドな大人な街。ラブホテルもある。  寧人は顔を真っ赤にする。 「古田さん、ラブホじゃ燃えないって言ってたのに」 古田はまだギロッと睨んだ。 「ばか、とにかくついてこい。ホテルじゃない」  車を降りて古田がスタスタと歩く先にはバタフライスカイと書かれた看板があった。寧人はどこかで聞いたことのある名前だと思いながらも入っていくが黒塗りで怪しい店。  外は明るいのに店の中は真っ暗。寧人はビクビクしながらも古田の後についていく。    狭い入り口から少し離れた先に男性の黒服が待っていた。怪しい照明の下で。 古田は普通に振る舞い、寧人は挙動不審になる。だがふと思い出した。 「そうだ、バタフライスカイ……」  一護(いちご)からこの単語を教えてもらった。古田からいびられたらこの単語を言えと。 そして一回言うと古田はうろたえた。でも今はうろたえずに寧人といる。黒服に二人は案内される。  けたたましい有線のBGMに香水のきつい臭い。怪しい照明、いくつか狭いながらも部屋がある。 「古田さん、ここってあのバタフライスカイ!」 「そうだ、まさか鳩森の口からここのお店の名前出るとは思わなかったがこういう関係になったしな、もう平気さ」 「いや、この店って」 「安心しろ、営業先だ。スタッフたちの退勤システムがうちのものなんだ」 「それは知りませんでした……でもどう見てもここは如何わしい……」  すると黒服が止まる。 「古田様はこちらへ」  とドアが開かれた。 「鳩森、勉強してこい。しばらく付き合ってやったけどまったくもって下手だ」 と古田は冷たい顔で部屋に入っていった。 「下手? 今までのは……なんだったの?」 寧人は固まった。 「もしかして一護も僕との……下手だって思ってるのかな……」 一気に自信をなくす寧人。 「鳩森様、こちらですよ」 「あっ、はい……てか、この部屋で何をするんですか」 「お客様、初めてですよね……」 「初めてです、古田さんの紹介……てなるんですか?」 「そうですね。では中はどうぞ」  寧人はドキドキしながら入った。

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