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左遷編 第50話
あれから一年が経つ。会社はクビにはならなかったが騒動が酷くなり本社立ち入り禁止、他県の地域のケーブルテレビへの出向となってしまった。
そしてバタフライスカイに通い過ぎて今まで使っていなかったお金をほぼ使い込んでしまい、地方のぼろアパートに引っ越し。
前みたいに引きこもって仕事がしたいと思う寧人 だったが、それは無理であった。
職場の人は訳ありで来たことは知られているから肩身が狭い。ましてや色恋沙汰ともあって白い目で見られるが、いる部署は既婚者または50代過ぎた枯れた社員のみ。それに寧人はSEではなくて雑務をさせらて1日が終わるのだ。
残業もなしに定時に帰らされ、1人とぼとぼアパートに帰る。
しかし数年前の引きこもりとは違っているのは部屋の中がしっかり整頓され、洗濯もしっかりし、三食ご飯も簡単に作る。
一護 にやってもらってたものの、たまに彼から教えてもらってやり方はわかっていた。
そして常に綺麗な部屋に慣れていたから汚くなるのが寧人は嫌だった。
ブランド物の服は売ったが引き取られなかった服を上手に着まわしたり、髪の毛もそれなりに整える。肌も化粧水を、安いやつだが 買ってきて眉毛も整え髭もしっかり剃る。
清潔感だけは最低でもしっかりしようと気を配れるようになった。
だがやはり一護がいたときほど完璧にはできない。
「一護、戻ってきてよ」
と自分の好きな麻婆豆腐を食べながら涙する。
いくらやっても、あの味にはならないのだ。一番最初に食べたあの麻婆丼の味。一護にも作ってもらったのもおいしいがフードジャンゴで頼んだあの店の麻婆丼が食べたいと寧人はふとスマホでフードジャンゴのサイトを見た。
デザインは寧人がいた頃よりリニューアルされた。ニュースでは一護は社長じゃなくなったというのは知ったのだが、デザインが一新されてしまったのをみると悲しくなるのである。
「でもこの機能は僕が作ったんだぞ、これも、この機能も……」
と涙で目が霞んで画面が見づらくなる。しかも寧人が今住んでいる場所ではほとんどの店がフードジャンゴには対応していなかった。
「この地域にこそ必要なんだよな……おじいちゃんおばあちゃんや子育て中のママさんとか……少しは地域を広げろよ」
寧人はたまに点検や修理などの助っ人で街を回ることもある。
前住んでいたところとは住んでいる人たちの層も違う。出向した自分はもうなにもできない、もどかしさ。ノリノリだったころは自分からあれやらこれやら要望を出して改善できたと。悔しみしかない寧人だった。
「一護ぉっ……帰ってきてよぉ」
ひとりごとも少しずつ増えてきた。これだけは治らない寧人。精力はなくなっていたが一護のいない部屋は本当に寂しい。だからと言って他で穴を埋めることはできない、恋心も抱けない。
「一護はまた新しい誰かのお世話してるんだろうなぁ……うん……」
と、ふとフードジャンゴのページをスクロースすると寧人は驚いて手が止まった。
「えっ……」
そこには寧人が好きだった麻婆丼の写真が載っていたのだ。
「な、なんで?! ……え、県内初出店……」
そして今からでも注文可能であるという文字。
麻婆丼を注文する。恐る恐る。
「……」
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