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第61話

 それから数日後。2人はゴールとなるGテレビに向かい走っていた。特に事故も怪我も病気も無く(所々筋肉痛や、かすり傷などはあったが)ゴールを迎える。 「天気もいい……気持ちいいな、このゴール」 「うん! ゴールにふさわしい日だ! よっ、晴れ男の一護(いちご)ーっ」  寧人(よしと)はテンションが高い。確かにこの旅中は不思議と大雨に見舞われることはなかったのだ。一護も嬉しそうである。  そしてテレビ局が見えてくると沿道に人が立っている。 「ん? どういうこと?」 「……!! こんなに多いなんて」  一護は、いったん自転車から降りた。寧人も続けておりた。 「寧人、知ってた?」 「う、うん。スタッフからこっちからきてってわざわざ遠回りだなーと思ってさ。……こんなに多くの人たちがいるなんて聞いてなかった」  老若男女、所々にスタッフもいる。色恋沙汰で左遷してきた寧人を見下してた上司や同僚たちも泣きながら旗を振っている。 寧人はその姿を見て涙がブワッと出てきた。  一護が肩を叩いて自転車に乗ろうと声をかけた。  少しずつ2人で緩やかな坂を登っていくと、寧人はベクトルユーの上司や部下たちがいることに気づいた。 「なんで? なんでいるのっ」  一護も美容院時代のスタッフやフードジャンゴの社員たちの姿を見つけた。 「今日平日なのにどうしているのっ……」  一護も涙を堪えながらゴールに向かう。そして2人は驚いた。ゴールテープの前に2人の見覚えのある人がいたのだ。 「お兄ちゃん! 寧人さーん!こっちだよぉおおおお」  頼知であった。一護は再び足を止めた。なぜなら頼知の横に3人を見たからだ。 「お兄ちゃん!」 「にいちゃん!!」 「お兄ちゃん!!!」  一護の生き別れた弟と妹たちであった。フードジャンゴの社長である三男は仕事で来れなかったようだが、一護の父の葬式にも来なかった3人が駆けつけてきたのだ。3人とも中学生、高校生。休みを取ってきたようである。 「なんでっ、なんで……」 「この子たちが動画見てきたのよ、お兄ちゃん」  ゴールテープの向こう側にいる。一護は涙を流し、寧人を見て肩を組んだ。 「ゴールしよう……」 「ああ」  2人、泣きながらゴールテープを切った。そして大きなクラッカーが飛び、大勢の人たちに祝福された。  そして一護はすぐさま弟と妹のもとへ。頼知も仲悪かったはずだが涙を浮かべて抱きついた。  寧人がその姿を見ていたら、Gテレビの同僚たちが彼のもとに寄ってきた。  所長が手を熱く握り、涙してた。 「君がこんなにたくましい男だとは知らなかった。いきなり押し付けたのにも関わらず企画を成功させてくれてありがとう!」 「い、いえ……確かにいきなりでしたけどこの企画が成功したのも一護……さんやスタッフのみんなのおかげです」  そう寧人が言うと拍手が起きた。寧人はこんなにも人に囲まれて仕事を成し遂げる人間になったことに自分自身驚いている。  と、感動しているところにあのタレントがやってきた。  彼女も大泣きしながらマイクを持って2人の間に入る。 「本当2人の熱い絆は私たちを感動させてくれました! 市内だけでなくてミーチューブを通して全世界の方からも応援を受けました! 私も涙涙です!」  そう大きく言われると2人とも照れてしまう。 「あ、そういえば! 一護さん。ここで話したいことがあるそうで!」  話したいこと、寧人はなんだ? 聞いてないと言う顔をした。一護もタオルで涙を拭う。 「はい。あ、まず多くの皆様に感謝とお礼の気持ちをお伝えしたいです。ありがとうございました。スタッフのみんなも……寧人も」  一護は寧人を見る。寧人はうなずく。 「僕のわがままでこんな企画を。寧人がそばにいたから頑張れたんだ」 「一護……」  寧人はドキッとした。彼の心の中で話したいこととは、寧人とのことなのかと変に想像してしまう。 「実はね、寧人には黙ってたんだけど。前から取引先であり、Gテレビとも提携していたベクトルユーさんからお話をいただいてたんだけど……」 「んん?」 「ベクトルユーの代表にならないかと」 「ええええっ!」  ふと寧人は思い出した。先進的な会社であるものの、役職員が50代が多く若手を育てていくという話を上司がしていたのだ。 「一護が代表に?!」 「うん。でもなーと思って……」 「思って?」  寧人はいつの間にか一護が次の仕事を考えていたことにびっくりしている。常に一緒にいたはずだがたまにスマホをいじっている姿を見ていたのは知っているが。 「新しい会社を立ち上げることにしました」 「ええええっ?!」  その発表とともにクラッカーがまた鳴る。それには寧人は腰を抜かして驚いた。そしてまだ一護は続ける。 「うん、それで君もそこで働いてよ」 「はいっ?! なんの会社……」 「今回の旅でこの街のお店を見て回ったのだが、やはり個人のお店にはいろいろデメリットが多くてね。POSシステム、売上の管理、分析が統一されてなかったりできていなかったり。それらを簡単にできるものを作っていきたいんだ。だから君たちの力が必要だ」 「君たち……」  寧人は集まってきた人たちの中からとある見覚えのある男を見つけたのだ。  寧人の目の前にひょいとあられた。 「久しぶりだな、寧人」  少しその人物は痩せて髪の毛切って一瞬わからなかったが……。 「古田さん……?!」  その男は古田であった。

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