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思いたって、竹島はネット配信で映画を見た。
男どうしの恋愛物で、洋画が二本と邦画が一本だ。どれにするか選ぶときに、女性向けに制作されたマンガ的なものはよした。洋画のうち一本は、海外で有名な賞を受賞した作品だった。
二日かけて三本見た。
もともとゲイであることに自覚的なカップルもいたが、それ以外はノーマルな男性どうしだった。
ただ、描き方が抽象的で惹かれあう過程や心情をうまく読みとれなかった。
友情の延長からセックス。そんな感じだ。
男女の恋愛のようにまだるっこしい駆け引きもなければ、お互いの気持ちを確認してからベッドインするまでにゆっくりと愛を育む慎重さもない。女性よりもはるかに動物的な男性脳には、そんなことにかけている時間は無駄なのかもしれない。身体を重ねる。それこそが愛、とでもいうようだ。
男性の場合、女性と比べてセックスにもたせる意味がさほど重くない。できればいい、という手合いだって多い。だから実際、男しかいない環境の中では、女でなくてはならないということもない。やる側のほうは、手順にさしたる違いがないからだ。
では、やられる側はどうなんだろう。
竹島はまったくもってごめんだった。
そういう趣味はない。そういう趣味を持つ人を否定しているのではない。あくまで、側 の問題だ。竹島は、そちら側ではない。
では、広内はどうなのだろう。
広内はいったい、どちら側なのだろう。
あくまでそれは、広内がゲイならば、という前提においてだったが、竹島の方としては、意外といけるのではないか、と思った。
このさい女じゃなくてもいい、というほど相手に不足はしていないが、この世界にはもう男しかいないと想定された場合、広内はいける、という気がする。以前、里山が同じようなことを言っていたのを思い出す。
広内ならいける。
そのときはくだらない話だと流していたが、今ならわからないでもない。
竹島は、広内と肌を重ねるところを想像してみた。してはみたが、やはり女性相手にしか経験がないので細部まではまったく予測がつかない。だいたい、女と男とでは身体の作りがまるで違う。そもそも性感帯は女と同じなのだろうか。あいにく、映画はAVではないのでそこらあたりはまったくわからない。
そこで、またしても大学構内の中庭へ足を運んだ。午後の早い時間で太陽は高く、人通りは多いが影になったピロティは閑散としている。その片隅の石造りのベンチに、目的の人物はいた。
「いつでもここにいるんだな」
声をかけると、池田は読みふけっていた本から視線を上げた。
「ああ、映研の。いつもじゃないよ。さっき来たばかりだ」
「じゃ、おれの運がいいんだな。またちょっと訊きたいことがあるんだけどいいか」
そう言って、了承も得ずに隣に座る。池田は何も言わずに横へずれてくれる。
「何、ゲイ映画を撮る気になったか」
「それはまあ、まだなんだけどさ。こういうことって訊いていいもんなのかわかんねえんだけど、男どうしのセックスってどうやってやるもんなの」
率直な問いに、池田はさほど不快感を示さなかった。愚問だとでもいうように、肩をすくめる。
「だいたい見当ついてるんじゃないのか」
「まあな。だいたいのことくらいならわかるんだけどさ、細かいところはわかんないんだよ。やっぱり経験者じゃないと」
「知識に貪欲だなあ。実地が一番早いんだけどな。おれが実地してやろうか」
「バカ言うなよ」
池田は笑い声をあげて、それから竹島の質問に事細かに答えてくれた。その屈託のなさが、竹島は気に入った。どのようにすれば快感を得られるか池田は教えてくれたが、結局のところと池田は言った。
「身体をつなげてみないとわからないよ。男女と同じく、相性ってのはあるからさ。ただやっぱり、セックスなんていうものは、愛し合ってるものどうしがする以上に快感を得るコツなんてないんじゃないかなあ」
「脚本にもかけないようなまっとうなこと言うなあ」
「安穏と恋愛してるヘテロよりよほど愛に貪欲だからな」
「勉強になるよ」
竹島は真面目に答えたつもりだったが、池田はまた声高に笑った。
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