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広内と、目が合わない。
竹島は近頃考えていた。ここ最近、広内と目が合わないのだ。
おかしい。
いつもなら竹島が思いたって広内を探し、見つけると数分ののちに広内がこっちを見るはずなのに、見ない。まあそんなこともあるかと流していたが、二度や三度でなくめっきり目が合うことがなくなったのだ。
不自然だった。なにしろ、竹島は女からも男からもモテるのだ。人気者なのだ。
もちろん万人に有効だとは思っていないが、少なくとも映研の中においては部長であるし、竹島の動向や一挙手一投足はある程度注視されていて、竹島もそれを自覚している。竹島が誰かに用事を頼もうと思って、探したり声をかけようとしたら、その前に当人や周りにいる誰かが気づいてくれることが多い。
だから、竹島はしょっちゅう人と目が合う。たいがい、竹島の視線に気づくのだ。
だから、不自然なのだ。
では広内は、竹島を避けているのだろうかというと、そうでもない。部室にも飲み会にもちゃんと来る。竹島が話しかければ答えるし、応対も以前と変わりない。
ただ、目が合わないだけだ。
目が合わないだけなんだったが。
それが竹島にはなんだか。
なんだというのだろう。なんと表現すればいいだろう。強いて言うなら。
不満なのだ。
気に入らない。
もしかして、広内が竹島のことを好きなのではないかというのは思い過ごしだったのだろうか。
では、あの目はなんだ。
どうしてああいう目をする。どうして、竹島を惑わせる。
待てよ、と竹島は思う。
おれは惑っていたのか?
それは知らなかった。
一年に声をかける。子犬のように嬉しそうにする。広内に声をかける。広内も他の一年と同じように嬉しそうにする。ただ広内は、他の部員に声をかけられても嬉しそうに返事をする。単純に、先輩に声をかけられるのが嬉しいように見える。
ではこのおれも、他の部員と同じだというのか。
このおれなのに?
何をやらせても優秀で、男からも女からも人気のあるおれなのに?
なんていうことを、思ってみたりするくらいには不満だった。
そんな不満が、知らない間に溜まっていたようだった。
その日の飲み会では、めずらしく酒が過ぎた。飲み過ぎたようで、三次会へ行くのが面倒になった。みなと別れて帰りしな、咽が渇いて自動販売機を探していたら広内を見つけた。一人だった。
「広内」
声をかけると、広内は嬉しそうにした。その嬉しそうな顔はどっちだ、と竹島は思う。
おれだからか、それとも先輩なら誰でもそうなのか。
「ちょっと飲まないか」
広内は嬉しそうにしてついてきた。コンビニで酒を買って竹島のアパートで飲むことにした。飲み会で盛り上がった映画論について竹島は言いそびれていたことを広内に向かって話した。広内は朗らかにそれを聞いていた。内容をどれくらいわかっているのかは知らないが、飽かずに聞いた。嬉しそうに話を聞く広内が、竹島はなんだかいまいましくなった。
そんなに嬉しそうにするんだったらなぜ、目が合わない。
なぜ、他の部員たちにも同じように嬉しそうにする。
本当のところ、おまえはどうなんだ。
おまえはいったい、何がどうで、何をどう思ってるんだ。
確かめてみればいいじゃないか。
池田の声が耳元でする。そうか、と思う。
確かめてみよう。
やにわに、竹島は広内を押し倒した。
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