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 映研というのは、映画を撮るサークルだと思っていた。だから敷居が高い気がしていた。  でも、映画を撮るのは年に二度かそれくらいで、後は定期的に映画観賞会をしたり、何もないときは部室で好き勝手に映画談義をしているくらいのようだった。  おかげで、気が楽だった。  新入生はおれを含めて六人で、全員男だったことにちょっと驚いた。てっきり女子が大勢入部するのだろうと思っていた。どうやら明らかに竹島さん目当ての女子は除外されるらしく、その点でおれは、男で良かったと思った。  入ってすぐに、毎年恒例の新入生歓迎用だとかでショートフィルムを一本撮った。  毎年必ずいる、おれのようなど素人の新入部員のために映画撮影の雰囲気を味わわせてくれる企画だということで、本来ならちょっとした手伝いだけのはずだった。 「おい、そこの」  と、突然竹島さんに指さされ、おれは心臓が止まるかと思った。  撮影のためのミーティングの最中だった。出演者の一人がケガをして、その代役に竹島さんが、おれを指名したのだ。  なんで、おれ?  もちろん竹島さんは、せっかくだからと新入生の中から適当に選んだのだろうけれど、よりによってなんで、と混乱した。演技なんてしたこともないのに。  でも、竹島さんがおれを選んでくれたことは嬉しかった。  覚えられてはいなかったけれど、ちゃんと名前も呼んでくれた。  それで、正直演技なんて絶対にやりたくなかったけれど、やることにした。というより、竹島さんに言われたのに断ることなんてできなかった。  おれがやることになった役は、ストーリーに直接関係のない端役で、でも一応セリフはあって、見よう見まねでやってみたら、意外とおれの周りの人には好評だった。上映会には部員ではない一般の学生も来ていて、後日知らない女子学生に突然声をかけられたりして驚いた。気恥ずかしかったけれど嬉しかった。  当初の印象からまったく変わらず、竹島さんはいつどこで見てもかっこよかった。  部室で他の先輩としゃべっているときも、撮影でカメラチェックをしているときも、主演として演技しているときも、ときどき大学の構内で歩いているところを見かけるときも、抜かりなくかっこよかった。  ただ、部室以外の場所で見るとき、だいたい竹島さんはキレイな女性を連れていた。  やっぱり、そうだよなあと思う。  あんなかっこいい人に、彼女がいないほうがおかしい。  彼女といっても、決まった女性ではないようだった。  そうだよなあ、と思う。だって、あんなにかっこいいんだもんな。  竹島さんは、みんなに等しく優しい。  女性だけでなく、男にも、おれたち後輩にも。同じように接してくれる。  同じというか、やはり女性より男相手のほうが多少気安いだろうか。  まあそのせいで、みんなが竹島さんを好きになる。  だから竹島さんは、みんなのものであって、誰のものでもないのだ。きっと竹島さんの隣にいる女性たちも、それをわかっているのだ。  叶うなら、おれもその中に入りたい、と、思わないでもない。  隣を歩く、女性たちの内の、一人に。  竹島さんの腕に抱かれる、彼女たちの内の一人に。  そんなこと、天地がひっくり返ったって、ありはしないことだけど。

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