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おれの願いは、思っていたよりずっと早く、叶った。
翌週の金曜日、部会終わりの恒例の飲み会で、三次会へ向かう途中に竹島さんが、おれに耳打ちをした。
「寄ってくか?」
どこへ、なんて訊くまでもなかった。
おれがうなずくと、竹島さんはおれの腕を引いてそっと道を逸れた。
竹島さんのアパートに着くなり、部屋の電気を点ける間もなく後ろから抱きすくめられた。
最初のときと違って、これから何が起こるかわかっているぶん、緊張は大きかった。
多少酔っていたのが良かったのか、もつれあうようにして布団に倒れこむと、もう何も考えられなくなった。
とにかく何もかもが、夢みたいで嘘みたいで、抱き合っている最中もずっと、実感なんて何一つなかった。
ただ、竹島さんの腕のなかはひどく気持ち良かった。
竹島さんがおれにしてくれるすべてのことが気持ち良くて、その感覚だけはずっと体に残っていた。
竹島さんはみんなのものだ。
もの、なんていうと竹島さんに失礼だ。
でもだいたいの人がきっと、竹島さんのことが好きで、だから誰も竹島さんを独占してはいけない。独占したいなんて、思っちゃいけない。
それはわかっているんだけれど。
講義棟の入り口横の掲示板の前で、竹島さんがキレイな女の人と話していた。
竹島さんが一緒にいる女の人は、だいたいキレイな人だ。
あの女の人にも、同じようにするんだろうか。
二人を見かけて、おれは踵を返す。
背を向けて遠ざかりながら、そんなことを考える。
あの女の人にも、おれにしたように、するんだろうか。
普段の飄々 として、余裕があって、ちょっとやそっとのことじゃ動じない竹島さんからは想像できない、ちょっと強引で、性急で、貪 るような、そんな抱き方を、あの人にもするんだろうか。
いや、違う。
あの人たちにするようなことを、おれにもしているだけのことだ。
勘違いしちゃいけない。
それは、わかっているのだけれど。
二度、三度、肌を重ねるごとに、最初のときに抱いたような謙虚な姿勢が失われてゆく。
あたりまえのように求められるたび、切なくなってゆく。
おれは多数のなかの一人で、おれでなければいけない理由はきっとなくて。
理由があるとすればせいぜい、近くにいて誘いやすくて、男だからカモフラージュしやすくて、なんどセックスしたって妊娠なんて恐れはない、きっとそういったものだ。
それでもいいと、思っていた。
最初は。
でも、おれは。
そんな恋を、したかったんだろうか。
好きな人と、そんな恋を。
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