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第6話
あれからリビングに戻って来て、僕は控えめながらもソファの上、水瀬さんの隣に座って2人で談笑していた。
「残りのメンバーの顔合わせだけど、皆が揃うのは大体20時頃になるよ」
「そうなんですか。皆さんお仕事とかですか?」
「そうだよ。皆それぞれ職業もバラバラでね、ちなみに僕はしがない営業マン」
「え……」
「あれ、もしかしてアイドルか何かでもしてると思った?」
「はい、少し。水瀬さんかっこいいから」
「…ありがとう、冗談のつもりだったんだけど。まぁこの顔のせいで色々と苦労も多くてさ」
不意に水瀬さんの表情が翳 り始めた。話題を変えた方がいいかとも思ったけど、僕はあえて話を続ける。
「え、どうしてですか?」
「実は営業だから取引がスムーズだとかよく言われたりするんだよね、確かにそれもあるんだけど。でも実際接待が面倒だったりしてね、ほんとクソ食らえって感じ」
そうアンニュイに笑いながら言って退ける水瀬さんに、親近感のようなものが湧いた。
「…僕も、です。本当に昔から自分自身が大嫌いなんです。この顔が特に」
いつの間にか談笑というには少し重たくて暗い空気が流れた。
「…はは、ごめんね暗くしちゃって。よかったらよく顔を見せて、僕に」
すると水瀬さんが話題を変えるためか、距離を詰めて真っ直ぐに黒い瞳で僕を捉える。
「…これでいいですか?」
ゆっくりと黒縁の眼鏡を両手で外し、恥ずかしさから髪を弄って誤魔化しながら目線を合わせてみた。
「うん、やっぱり可愛いね。眼鏡ない方がいいよ」
「…でも落ち着かなくて…」
何故だろう。男の僕に言うような言葉じゃないのに、自分が嫌いな言葉のはずなのに。
"可愛い"と、僕に向けられた言葉が嬉しいと感じている。
「そう、でも無理は言わないよ」
「すみません…ありがとうございます」
その後暫くの間、僕は水瀬さんとの会話を楽しんだ。
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