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キョウ第2話
オレ(秋月 暁弥)の両親は、オレが小学生になった頃に離婚している。オレは親父に、妹は母親に引き取られた。それ以来、母親にも妹にも会っていない。
母親は、オレの顔が親父に似すぎているから会いたくないんだろう。いつもヒステリックに怒鳴っていた記憶しかなく、いい思い出もないから別にオレも会いたいとは思わない。
妹とはSNSのメッセージアプリで連絡をとってはいるが生存確認程度。お互いにさほど興味がないので充分だと思う。
親父とはまぁ上手くやっている。
あの人はオレが小学生の頃から子ども扱いせず、一人の人間として扱ってくれたしな。
親父は、普段は普通の会社員で営業マンをしているが、実は今でもバンドでボーカルをやってるミュージシャン。ステージの上ではオレと同じく無駄に整った顔も映え、妙なカリスマ性を魅せる存在なんだそうだ。
全くメジャー向きではないアンダーグラウンドな音楽なのでプロ志向はないみたいだが、インディーレーベルからCDを何枚も出していて、そのジャンルでは海外でもなかなかな人気バンドらしい。
そのバンドとは別に一人でシンセサイザーやサンプラーも使ってパソコンで音を作っており、ソロでライブをしたりもしている。
最近ではそっちの方が多いみたいだ。
まぁ何と言うか、仕事より趣味重視の人なんだ。
ちなみにアスに移ったオレの口調は親父譲り。
オレのように愛想がないタイプが人を丸め込むには丁寧な口調の方がより効果が高いと気付いてからは、親父とアスの前でしか素の口調に戻らない。
この掌握術的なものも親父譲りだ。
親父は笑顔だけで人を魅了する。
そんな親としてはどうかと思う人物だが、出来る限り飯も作ってくれたし、それなりに美味かった。
夏休みなどの長期休暇の昼食は、流石に金を渡され好きなものを買えと言われたが、オレは別に何の不満もなかった。
そんな一人で過ごすのが初めての夏休みにアスと出会った。
毎日母親と二人で公園に来て、朝から昼前までボンヤリと過ごしているのがやけに目に付いた。他の子どもと遊ぶわけでもなく、時々地面になにか描いてみたり、その辺の石や木を拾ってみたりするものの、基本、ボンヤリと座っている母親に纏わりついているだけだ。
何となく気になり話しかけてみると、どうやら父親を亡くしたばっかりらしい。幼いなりにその事実を理解し、母親を気遣っているようだった。
「お父さんが死んじゃって、お母さんがずっと元気ないの。死んじゃうってもうずっと帰って来ないってことだよね。」
そう言ってつぶらな瞳に涙を溜め、泣かないように我慢している顔は天使の様に愛らしかった。
母親はそんな状態だし、これは放っておくと誘拐されるかもしれないと本気で心配した。
オレにとっては初めての感情だった。
アスは当時三歳。甘えたい盛りなのに茫然自失状態の母親を逆に支えていた。
そんな中で、二歳年上(誕生日の関係でこの時点でオレは六歳だったが)のオレは頼りがいがあったのだろう。あっと言う間に懐いた。
オレは特定の仲良し的な存在は苦手で、クラスでも上部だけの人間関係を構築していたのだが、アスに懐かれるのは嫌ではなかったんだ。
夏休みの中盤、やっとアスの母親はオレの存在に気付き、顔を認識したように思う。
オレとアスをしみじみ眺め、
「て、天使が二人・・尊い・・・」
と、つぶやいた日から徐々に復活していった。
オレのことも得意の掌握術を発揮するまでもなく可愛がってくれるようになった。
お盆が終わる頃には、オレが一人で昼食を買って食べていることを知ると、アスの家で一緒に食べるよう誘ってくれた。
その後、偶然に出会った親父に話をつけたらしく、それ以降長期の休みにはアスの家で昼食を食べるのが当たり前になったんだ。
親父はそれまでオレに渡していた金をアスママ(いつの間にかそう呼ぶようになっていた)に渡そうとしたが、
「子どもが一人増えたくらいで、大して食費は変わらないから大丈夫です!」
と、頑なに受け取ってもらえなかったみたいだった。
こうして、オレとアスの物語は始まった。
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