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キョウ第6話
完敗だ。
オレは今、意識が飛んで寝落ちしたアスの顔を見ながらとてつもなく猛省している。
まぁ、とてつもなく幸せでもあるんだが。
やっとアスを本当に抱けたんだから。
結果から言えばすべて思い通りなんだ。
ただ、親父の存在と、アスの感受性が強すぎた。
そしてオレが不甲斐なさすぎた。
親父の音楽は確かに凄い。
昔もアスは親父のライブに感動していたが、今日あそこまでナチュラルにトリップするほど持っていかれるとは思わなかった。
興奮と感動はすると思っていたけど、それを利用してウチに連れて来ようくらいの考えだったんだ。
正直焦った。
音だけでなく親父本人の魅力も大きいんだろうが、とにかくアスはあのライブで何かを掴んだ。
そして、過去とオレに決着をつけたんだ。
アスからキスされた時には本気でびっくりした。
あのタイミングでされるとは全く予想外だった。
悔しい事に、あれも親父の音のせいだ。
アスが言っていたように、虚勢やプライドを親父の音楽が剥がしたんだろう。
それにがっつくオレ。情けねぇ。
家に呼んでからもアスの独壇場だった。
すぐに受け入れてくれるとは思っていなかったから、揺さぶりをかけるつもりでの直球な誘いをあっさり拒否。
そこから長い時間をかけてでもそう仕向けようと企むオレに、付け入るスキも与えず号泣。
過去の過ちをひたすら突きつけられたオレは、ただただアスを抱きしめる事しか出来なかった。
かと思うといきなりの「抱いて」宣言。
色々と吹っ切れすぎている。
あれか、親父の音楽と号泣で過去から解放され
「カタルシス」
を得たって事か。
親父が作った音で「カタルシス」ってタイトルの曲があるんだよ。
今日のライブの一曲目でも演ってたな。
聞いたことない言葉だったから調べてみたら、
「溜まりまくっていた鬱憤を吐き出すことにより、心が浄化されたり、快感を得たりすること」らしい。
アスの状態はまさにこれだろ?
それ自体は喜ばしいことなんだが、結局オレは何も出来なかったんだ。
親父の音をきっかけに、アスが自分でそこまでたどり着いた。
それだけだ。
待望のSEXも、アスの身体を前にしたら我慢出来ずにこれまたがっついてしまった。
テクニックも何もあったもんじゃねぇ。
ああも自分に余裕がなくなるとは・・・
もっと大事に抱いて、この行為が気持ちがいいって事をアスの身体に教え込むつもりだったのに。
アスは強制的にイカされたようなもんだ。
オレが盛っただけ。
もう二度としたくないって言われたらどうしよう・・・
柄にもなく気弱になる。
ベッドで眠るアスの頬を撫でてみると、もぞもぞと動きがあり、パチリと目が開く。
「あぁ、悪りぃ。起こしちまったな。」
「すまなかったアス。オレ、絶対気持ちくしてやるって約束したのに、無理矢理イカせちまったんじゃねぇ?身体辛くないか?」
「キョウ、言葉遣い・・・」
「あ~今はちょっと取り繕ってらんねぇわ。がっついちまった自分に猛省中って言うか・・・」
「??俺、ちゃんと気持ち良かったよ?
それに、途中から強引にされたのも、前みたいに翻弄されるより、俺に夢中になってくれてるのが分かって嬉しかったし。」
「まぁ、あの魔王モードも嫌いじゃないけど。最初はお互いに余裕がないくらいでいいんじゃね?素のキョウが俺の初めてを奪ってくれて良かったよ。」
・・・あぁ、マジで完敗だわ。
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