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番外編2 ジュン×レン 温泉ツアー(レン1)

 俺の名前は春日 蓮人(かすが れんと)。二十八歳だ。  恋人のジュンさんの専属PAをしている。 PAとはライブなんかで音の調節などをする人のこと。 例えば、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、が一斉に声や音を出せばドラムの音が一番大きい。 それを調節して、ボーカルの声を目立たせたり、高音すぎたり低音すぎたりする音をまとめて聴衆が聞きやすいようにするのが仕事。 ライブハウスやクラブに、ツマミがいっぱいついたミキサーやアンプに囲まれた一角があるの、分かるかな?そこで音の調節をしているんだ。  俺は昔からメジャーな音楽より、パンクやオルタナティブロックが好きで、大学生になってからはライブハウスでバイトをしていた。 そこでMAGもライブをよくやっていたから、ジュンさんの事は知っていた。と言うより、普通にファンだったよ。 バイトをしているうちにPAの仕事に興味を持ち、そのライブハウスでPAをしていた師匠に弟子入りさせてもらったんだ。 人手が足りなかったらしく、バイトでもキャッシャーやバーに入るよりPAの雑用をメインでやらせてもらえるようになり、徐々にエンジニアとしての仕事も覚えていった。  PAを本職にする道も考えたけど、それだと好きじゃない音も扱わないといけないし、客とのやりとり、機材チェック、運搬、運転、搬入、撤収・・・と、音に関わる以外の仕事が多すぎる。 だから俺は、自分が好きな音楽のPAだけをすると決めたんだ。 オファーがあって、自分好みな音なら引き受ける。まぁプロじゃないし、そこまでずば抜けた技術も持ってないから、本当にお互いの音の好みが合う相手だけかな? 結果、ほぼジュンさんの専属PAだ。 だが、それで満足している。 MAGの音もソロのJUNの音も俺が最高の状態でフロアのみんなに披露する。 それが俺の使命で生き甲斐だ。  普段は、実の姉が経営するカフェで働いている。元々たまに手伝うだけだったんだけど、俺が居ると売り上げが倍増するからと、頼み込まれて社員になった。 姉はバツイチで子持ちだが、かなり逞しい。 元ダンナからふんだくった多額の慰謝料で、寂れた街の喫茶店だった実家をオシャレなカフェに改装して立て直し、株式登録もした。今では二号店も出している人気店だ。 大学卒業間近なのに就職が決まらず、ライブハウスとPAのバイトしかしていない俺を見かねて声をかけてくれたんだが、俺のルックスを客寄せに利用したってのが本音だろう。  自慢ではなく単なる事実として、俺のルックスは整っている。黙っていれば冷たそうに見えるが、軽く微笑むだけでかなりの女性が釣れる。 だからといって別に嬉しくも何ともないのだが。 それを自覚し、店の売り上げになるのならと、笑みを絶やさないようにしたら、本当に売り上げが倍増したようだ。 まぁ、結果的に社員として働けているので良しとしている。 先にシフトの申請さえしていれば、PAの仕事をするのも認めてくれてるしな。 ちなみに姉は、ジュンさんと俺の事を受け入れてくれてはいるが、ジュンさんとの相性がすこぶる悪い。 ジュンさんの魅力にあてられない珍しい人物だ。 女王様タイプで確固たる自分を持っているからジュンさんの魅力が通じないのかな? 何かとぶつかり合うのも似たもの同士の同族嫌悪ってヤツかもしれない。  今日は、ソロのJUNとしてジュンさんが夕方に野外パーティーでのライブを終えた後、隣の県のクラブでもう一本ライブがある。 俺が車を運転して、機材も運ぶ。 クラブに到着して機材を搬入し、ジュンさんのリハが終わった所で晩飯を食べに外に出た。 近くにあるラーメン屋に入って、二人ともとんこつ醤油ラーメンを単品で頼む。 あんまり満腹になると音に集中出来ないからね。 「ねぇ、ジュンさん、キョウくんとアスラちゃん上手くいってるかな?」 「さあなぁ?アスラちゃんはああ見えて結構思い切りがいいと言うか、突拍子もないことしたりするからな~面白い事になってんじゃねぇの?」 「面白い事って・・・?キョウくんがふられるのは想像出来ないけどなぁ。」 「まぁ、なるようにしかならないから放っときゃいい。それよりライブの後は温泉だからな。しっぽりといこうぜ・・・レン?」 一瞬で自分の顔に血が上るのが分かる。 やめて! そんな艶っぽすぎる流し目で見ないで! ここまだラーメン屋だからね!!  午前0時、前のDJの音が終わり、JUNのライブが始まる。 JUNの音は、アンビエント、ノイズ、エレクトロ、テクノ・・・などが入り混じっていて、簡単にはジャンル分けしにくい。 まぁ、ダンスミュージックではあるので、クラブのパーティーでライブをする事が多い。踊れない音の時もあるけどね。 今日の野外でのライブはアンビエント色が強かったが、今はノイズ寄りのエレクトロだ。ノイズの高音が出すぎないように調節する。 そう言えば野外での一曲目は「カタルシス」だったな。   「カタルシス」のテーマは、心の解放と浄化だ。 性的マイノリティは異常じゃない。 自然の仕組みによって、ある一定の割合で生まれるようになっている。 誰もがそうなる可能性を持って生まれて来る。 自分を否定するな。 自分を解放しろ。 そんなメッセージが込められた音。 人がこの世に生まれ落ちる前に居た場所、子宮の中の羊水を感じさせる水音に似た音から始まり、そこに漂い、徐々に母体が産気付き、この世に誕生するイメージの音。 そう、音ですべてを表現している。 ないはずの歌詞をジュンさんが教えてくれた。 お前は何も悪くない。 これは自然の摂理。 自分を愛してやれ。 自分を否定するな。 自分を解放しろ。 そしてお前の心が凪ぐように・・・  この曲は、俺がジュンさんに惹かれながらも、ノンケな自分しか肯定出来ずにいた時期に作られた・・はずだ。 面と向かっては言われてはいないが、俺に向けてのメッセージだったと思っている。 この曲で俺は、自分がゲイであると認めたというより、ジュンさんという人物を愛する自分を認めた。 それで正解だったと思っている。 だって俺はジュンさんしかいらない。  今日の野外で「カタルシス」を演ったのは、確実にキョウくんとアスラちゃんへの後押しだ。 キョウくんは、この曲を聞くまでもなく確固たる自分を持っているだろうけど。 アスラちゃんに届けばいいな・・・  そんな事を思っているうちにライブが終わる。 ちょっと考え事をしてしまったけど、音のバランスは良かったはずだ。 今日もジュンさんはカッコ良かったな。 ファンが群がるいつもの光景。 それを軽くいなしながら俺の方に来るジュンさん。 「おっし、レン、撤収するぞ。」  機材を片付け車に乗せる。 ジュンさんは、基本パーティーが終わるまでそこに居る事が多いが、今日は即撤収らしい。 車を走らせ温泉旅館へと向かう。 普通ならこんな夜中にチェックインは出来ない。 何でも、今日のパーティーのオーガナイザーの親戚が経営する温泉旅館らしく、今日の夜中から、明日の夕方五時までは離れの一室を自由に使っていいとのことだ。 普段一日に二度ライブをするのを好まないジュンさんが、先に野外のライブが決まっていたのにもかかわらずこのパーティーのオファーを受けたのは、ライブ後にこの離れを使っていいと言われたからだと思う。 「ジュンさん、着いたよ」 「・・・ん?おれちょっと寝てたか?おっしゃ!何かスッキリしたわ。行くぞレン。」 うっわ、めちゃくちゃ張り切ってる。 俺も期待しないわけじゃないんだよ。 寧ろ嬉しい。 こんなにゆっくり一緒にいられる事は少ないし。 ジュンさんを喜ばせようと、ちょっとしたサプライズも考えてる。 でも何か早まった気がしてきた・・ 覚悟して来たんだけども。 オーガナイザーの「夕方五時までゆっくりしてってください」って気遣いが恨めしい。 俺、体もつかな・・・?  離れなので、フロントを通る事もなく、小さな一戸建てになっている一室に辿り着く。鍵はオーガナイザーからすでに預かっているしね。 鍵を開けて中に入る。 玄関から上がり、ジュンさんが襖を開けた、 「おっ!いい感じの部屋じゃねぇか!」 本当にいい部屋だ。ザ和室って感じ。 すでに布団が二組しかれた客室に入り、荷物を置く。 奥の扉を開けたジュンさんが楽しそうに言う。 「露天風呂付いてんじゃん!最高だな。 レン、風呂でもヤレるぞ!」 ・・・コラ、おっさん! いい歳して何言ってんだよ!!  

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