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第10話

   ——連日、嵐が続いていた。暴風と大雨だ。街の人たちはみんな不安がっていたし、アルスも「神様に何かがあった」とすぐに分かった。  もしかしたら、アルスが居なくなったことで、少しは神様を煩わせることができたのだろうか。  そんなことを思うだけで体はすぐに熱くなる。キリアに触れられたときの比ではない。全身が熱くて、うまく頭も回らなくて、アルスのすべてが神様を意識してしまう。 「……おまえが私への気持ちに気付くまではと待ってはみたが、無駄だったようだな」  真っ赤になったアルスを見下ろして、神様は安堵したように微笑んだ。そんな珍しい表情にも簡単に胸が締め付けられる。アルスはもうこの気持ちが何かを知っている。神様に恋をしているのだ。分かった上で接するのはいつもとはまったく違う。 (ずっと見られてる……)  見つめるのなんか神様の癖で、アルスだってよく知っているはずなのに、今はいたたまれない気持ちでいっぱいだった。  顔を逸らす。しかし神様の視線はアルスに突き刺さっている。アルスの腕を押さえつけたまま、押し倒した体勢で動かない。 「あの……僕、が、気持ちに気付くって、なんで……」 「? 私としか共に過ごしていないのに、私以外に愛を抱けるわけもないだろう」  自信満々な物言いに、アルスはとうとう何も言えなくなってしまった。 「何のために世界を閉ざしていたと思う。何のために口付けで神気を注ぎ込んでいたのか。——そのように鈍いところも愛いが、愛でてばかりではいけないようだな」  アルスの濡れた衣服が、神様の手で優しくたくし上げられた。  程よく筋肉のついた体だ。アルスはそれを見せるのが嫌で、掴まれた腕に力を込める。 「どうした。嫌か」 「……見られたくなくて」 「ほう。何故」 「……だって神様は、美しくて若い男が好きだから……僕は正反対だし……」  華奢でもなければ儚げでもない。アルスは普通の成人男性で、決して庇護欲をそそるわけでもない。こんな体を見せても神様を幻滅させるだけだと、アルスは暗い表情で目を伏せた。 「分かっていないな」  神様は体を倒して距離を詰めると、掴んでいた腕を片方離し、伏せたアルスの顔をそっと上に向ける。 「私が私好みに育てた男を、どうして私が嫌がると思うのか」  次には唇が重なっていた。  いつもの感触だ。やっぱりキリアとは違う。もう二度と味わえないと思っていたその感触に、アルスはうっとりと目を閉じた。  ずっとこの感触に溺れていたかった。この感触だけを感じていたかった。絡む舌に応えるように擦り付けて、感極まって神様の首に腕を回す。強請るような仕草は恥ずかしかったけれど、我慢ができるはずもない。 「……甘え上手だな、アルス」  ちゅう、と音を立てて吸い付くと、神様は少しばかり唇を離す。 「ああ、忌々しい。人の食い物など腹に入れおって……人間臭くなってしまった」 「……すみません」 「湖の水を多く飲んだろう。おおよそ清められてはいるが……やはり、私が直接清めてやろう」  胸から腹へ。剥き出しの肌に、神様の手がゆっくりと伝う。アルスがその感触に集中していると、肌を楽しんでいた手は下腹で不意に動きを止めた。 「……どれほど注げば消えると思う?」  神様の問いかけにアルスは何も言えず、ただゴクリと喉を鳴らした。    

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