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第11話
ある日、とてもとても迷惑なことに、置き手紙と共に赤子が放置されていた。
真っ黒な髪と白い肌、翡翠の瞳を持った、とても愛らしい人間の赤ん坊だった。
それを見て、そういえば最近生贄が来ていなかったなと、神様もなんとなく思い当たる。
——湖の神様は力が強い。だからこそみなが恐れ、機嫌をとり、そして敬う。
本当は神域も生命力が絶対に必要なわけではないのだけど、それがあったほうが神様が楽をできるから、生贄は甘んじて受け入れるようにしているだけだった。
それにしても、今度の生贄は若すぎる。どうせ時間稼ぎだろうと見当をつけた神様は、すぐに赤ん坊を抱き上げた。
「可哀想になぁ、赤子よ」
まだ世界も知らないうちからその命を賭すのかと、神様も哀れな気持ちでいっぱいだった。
赤ん坊は神様をじっと見つめて、嬉しそうに笑う。めいっぱいに伸ばした両手は、神様の顎に少しだけ触れた。
無垢な色だ。汚れが一切見られない。そんな魂を知らなかった神様は、少しばかり考えたあと、赤ん坊を小屋へと連れた。
その小屋は、生贄が湖の水を飲むことによって体の中身を清め、生贄となるための短い時間を過ごす場所である。
赤ん坊は終始嬉しそうだった。神様は赤ん坊に「アルス」と名をつけて、清めの時間が必要だからと、数日間だけ様子を見てやることにした。
数日だけが、気がつけば数ヶ月へ。数ヶ月が、気がつけば数年へ。神様は結局アルスを生贄になんてしないまま、穏やかで優しい時間を過ごす。
案外悪くない。誰かと共に過ごすなど考えたこともなかったけれど、アルスとならば退屈な毎日が鮮やかに色付く。
アルスが笑うと、神様の心も優しくあれた。
この何の変哲もない美しい日々が得難く大切なものであると、心の底から思えていた。
「なんですか? 神様」
アルスは花が綻ぶように笑う。幼い頃からそうだった。純粋で濁りのない笑みを、神様へとまっすぐに向ける。
「……なんでもないよ」
そんなとき、神様はいつも見惚れてしまって、ろくな言葉を返せなかった。
——そんな、ある日のことだった。
「神様、僕は生贄として不出来でしょうか」
唐突にアルスに問いかけられた。
いったい何を言い出したのか。神様には分からなかったけれど、その頃にはすでにアルスを”生贄”などと思えなくなっていたから、神様は「その気はない」とだけ伝えた。するとアルスは寂しそうに笑って、何かを諦めた顔をしていた。
——神様にとってアルスは無二の存在だ。生贄にするなどありえない。
アルスに人間の食事をさせなかったのだって、キスを選んだのははもちろん下心や思惑があったけれど、人間に馴染ませたくなかったということもある。そちらに馴染んでしまえば、いつかアルスが人間の輪に溶け込みたいと言い出すかもしれない。もちろん離すつもりはないが、不用意に興味を持たせたいとも思わなかった。
早く大人になって、私を受け入れるようになればいい。いつからかそんなことを思い始めて、より厳重に囲うようになった。
アルスは普通の人間よりも成長の速度が遅い。それは神様から神気を受けているからで、いわば神様のエゴからなる結果である。
実際、アルスは「二十五歳だ」と言うけれど、本当はどれほどのものかを神様さえ知らない。閉鎖的な空間で生きてきた二人にとって、時間の感覚などあってないようなものだった。
そこまでしているのに、神様はアルスに触れる勇気はない。それは神様の唯一の「弱さ」である。
もしも逃げられたら。もしも拒絶されたら。傲慢になりきれなかった神様は最後の最後で足踏みして、アルスのすべてを欲してしまった。
だから、早く大人になって、と思ってはいたものの、お預け状態は長かった。子どもを犯す趣味はない。それ以前に、アルスが神様へ心を寄せていないのに、なし崩しにそのような関係になりたくもない。
心も体も手に入れたかった神様は、慎重に慎重にことを進めていた。
「アルス……良い手触りだ。これにあの男が触れたとは、なんと憎らしいことか」
吸い付くような感触に、神様はため息まじりにつぶやいた。
口付けだけでは見える 範囲に限度がある上に、持続力もないために頻繁に繰り返す必要がある。普段から静かなアルスが消えたことに気付いたのも遅かったけれど、何より発見が遅れたのはアルスに最後のキスを拒まれたからだ。加えてその後、神様が躊躇っていたばかりに——。
アルスは神様の下で、両手を投げ出して身を任せていた。すっかり凛々しくなった顔が今はとろりととろけている。神様の手が胸元に滑ると、アルスはピクリと体を揺らした。
「……神様……?」
「触れてほしいか?」
アルスの下は緩く勃ち上がり、下穿きを優しく持ち上げている。そちらをチラリと見下ろして聞いてみれば、従順なアルスは素直に一つ頷いた。
——まったく、どれほど惑わせれば気が済むのだろうか。底なしな感覚についにやけそうになった頬を、神様はとっさに引き締めた。
「アルス……」
衝動のままに口付ける。アルスは神様を受け入れるように口を開いて、自身から舌を絡めた。神様の手はアルスの体を伝うと、すぐに下に触れた。布越しだけれど、初めてそんなところを触れられたアルスにとってはかなりの衝撃である。思わずびくりと腰を揺らして、神様を引き離す。
「あ、え? あの、そこは……」
「どうした」
「いえ、その……そこ、少しおかしくて」
「おかしい?」
神様の優しい雰囲気に、アルスは上目に言葉を続ける。
「神様から神気をもらうとそんな状態になってしまって……。寝たら治るんですが」
「ああ、これか」
神様は躊躇いもなく、アルスの下穿きをずり下げた。
「わ! や、やめてください!」
そんなところが外気に触れるなんて、アルスにとっては慣れないことである。だってアルスには排泄が必要ない。水浴びのときだって服を着ていたし、その後はそのまま神様が服を乾かしてくれていた。キリアとはお風呂に入ったけれど、そのときには裸になったことよりも「お風呂」が珍しすぎて自身の状態を省みることも忘れていた。
だからアルスの感覚だけで言えば、そんなところがさらけ出されるなんて初めてのことだった。
今まで隠されていたところが暴かれて、アルスはさらに羞恥を覚えた。けれど隠そうにも、片手を掴まれている今のアルスにはどうにもできない。下穿きは奪われてしまったし、周囲を湖に囲まれているから逃げ場すらも見当たらなかった。
「ああ、期待しているのか」
神様の手が、勃起したアルスのそこに触れる。
見たくない。そう思うのに、目が離せない。アルスは空いている手で目元を隠しながら、隙間からしっかりとその様子を見下ろしていた。
神様の手が上下するたび、体の真ん中に痺れるような感覚が走る。自然と脚が開き、腰が跳ねて、いやらしく揺れてしまう。
「あっ、神様、ん……それ、は……」
くちゅくちゅと音が聞こえてくると、鼓膜からも犯されているように思えた。
透明の液体が溢れている。アルスの蜜液が、神様の手を汚している。そんな光景に、やっぱりアルスは目を逸らせない。
「ん、んっ、はぁ、気持ち、いい」
明確に快楽を理解すれば、ますます深みにハマるようだった。
神様が見ている。アルスの表情を、最初よりも勃起してすっかり固くなったそこを、じっくりと観察している。意識すればさらに恥ずかしくて、だけど気持ちがよかった。
「神様、や、だ、出る……!」
「これが精通とは……本当に無垢な存在よ」
神様の唇が、胸の飾りへと落ちた。その瞬間、アルスの腰が大きく揺れて、先っぽから白濁が飛び出した。
「あっ! はぁ……!」
射精の快楽が突き抜ける。脳髄まで痺れさせるそれに、アルスはだらしなく表情を崩していた。
「っ、ん、気持ちいい、神様……これ、何……?」
「この世界で私だけが与えてやれる快楽だ。——もっとほしいか」
「は、はい。もっとください。神様から、ほしいです……」
「あの男ではなくて?」
「……意地悪言わないでください」
「言うくらいいいだろう。私が遅ければ、おまえはあの男にこうされていた」
アルスの胸の飾りを甘く、けれど強めに噛むと、神様は下も強く握る。
「いっ……! 神様! 痛い!」
「覚えておけ。二度目はない」
言葉とは裏腹に、声音は優しい。アルスはそれに静かに頷くと、神様の頭を抱きしめるように胸元に押し付けた。
「……僕、神様に恋をしていました。外に出て初めてそれに気付いたんです。……この気持ちに気付くことができて、本当によかった」
だから外に出たことは許してくれと、神様にはそう聞こえて、それ以上は責められなくなってしまった。
「——脚を開け」
艶やかな声に、アルスは反射的に従う。
すると神様の指がぬるりと尻の間に滑り込み、アルスの蕾に触れた。
「……神様?」
どうしてそんなところに触れるの? とでも聞きたそうな音だった。
「ここから奥に私が入り、おまえのナカに私を刻む。そうすればおまえはもう人では居られないだろう」
先ほどアルスが吐き出した白を塗りつけるように、神様の指はぬるぬると入り口を擦り付けている。アルスさえも触れたことのない秘部だ。そんなところをほかでもない神様に触れられて、アルスはもう意識でも飛ばしてしまいそうだった。
「……僕の中に、神様を刻んでください」
ぬるりと、指が侵入した。不思議と痛みはない。優しい仕草で入ってきた指は腸壁に擦り付けて、いろいろなところを探っている。まったくおかしな感覚だ。アルスはその感覚に少し眉を寄せて、一生懸命に耐える。
とある一点に指の腹が触れると、アルスの膝が自然と跳ねた。
「ん! え?」
一瞬、とんでもなく強い快楽が走った。そんな衝撃についていけなくて、アルスは驚いたように目を見開いている。
「ここか」
反して、神様は笑っていた。嬉しそうな顔だった。
「あ! ん、や、いや!」
一点を擦るたび、アルスが体を揺らして悶える。アルスのそんな姿を見ていると、神様の衝動が突き動かされるようだった。
「愛いなぁ、アルス。もっと乱れて見せてくれ」
ぐちゅぐちゅとナカを擦られて、アルスは腰を浮かせていた。中心はすでに宙に向かって勃ち上がっている。アルスが快楽に腰を揺らすたび、そこも上下にぶるりと揺れた。
「うまそうだ」
触れてもいないのに、アルスの中心からは先走りが溢れていた。それをまじまじと見つめていた神様は、ナカを探りながらも、そこをあっさりと口に含む。
アルスにはさらなる衝撃だった。
柔らかくて温かい。そんな感触に包まれて、ナカからも快楽を叩きつけられては我慢なんてできるわけがない。
「ん、ぐ、や! 神様っ、神、様……」
神様の頭が動くと、アルスの腰も揺れる。指が動いて、快楽が増していく。アルスにはもう考える力さえ残されていなかった。
今はただ、快楽に身を任せてすべてを吐き出したかった。
(気持ちいい、気持ちいい、腰、止まらな……もう、出したい……!)
しかし。
神様はなんとも残酷なことに、アルスが達する直前で口を離し、指も引き抜いた。
途端に快楽が去ってしまう。アルスはまるで迷子の子どものように、どうしてと、そんな目を神様に向けていた。
「ああ、すまない。私も限界なんだ。……アルス。おまえのナカを、もっと良いモノで擦ってやろう」
神様が下穿きをズラすと、そこにはアルスと同じ男性器が、すっかり膨張した姿で反り立っていた。
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