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第3話
僕達はまだ番にはなっていない。
エッチはしても、項は噛まれていない。
それは単に、まだ発情期が起こっていないからである。
オメガが発情期中にアルファに項を噛まれることで番になれるので。
ランチを終えて、仕事に戻り、夢中で働いているとあっという間に退勤時間になる。
バッグを持って会社を出て、少し早足で病院に向かった。
診察券と問診票、それから『番についての質問』のことで少し話をして、待合室で待つ。
スマートフォンを弄りながら待っていると名前を呼ばれ、様々な検査を受けた。
その後はカウンセリングをされる。
柔らかい雰囲気のカウンセラーさんと十五分程話をした。
そこでは日頃抱えている不安や、番や恋人との間にある問題を整理する。
今日ここに来た一番の目的。それは発情期について抱えている問題を相談すること。
実を言うと、ヒロ君に出会ったあの時以来、発情期が来ていない。
三ヶ月に一度訪れるはずのそれがもう四ヶ月も。
カウンセラーさんには検査結果が出たら詳しく分かると思うとだけ言われ、その話はあっさりと終わってしまった。周期がズレることはよくある事だからそこまで問題視しないのかもしれない。
あとは『運命の番』について話をすることになった。
やはり数自体少ないようで、カウンセラーさんも『運命の番』を見たのは僕が初めてらしい。
聞く話によれば、普通の番よりもアルファの束縛が激しかったり、オメガは離れると不安になったりするのだとか。
そんな会話をした後、お医者さんの方に移動して、軽く診察をされた。
抑制剤の効きはどうか、副作用は出ていないか、そんな質問もされて答えた後、発情期の事について質問したけれど、答えはカウンセラーの先生に聞いたそれと同じ。あとは特に問題は無さそうだと判断された。
検診の結果は後程自宅に郵送される。
待合室に戻り、ヒロ君に『あとはお会計だけ』とメッセージを送った。
すぐに『わかった』と返事が来て、僕は椅子に座り小さく息を吐く。
どこかに食事に行って、そのまま別れるのか、どちらかの家に泊まるのか。
この後のことを考えていると、入口からヒロ君が入ってきて驚いた。どこかで待っていてくれるものだと思っていたから。
咄嗟に彼に向かい手を振った。するとすぐに駆け寄ってくる。
「蒼太」
「お会計まだなんだ。もうちょっと待っててくれる?」
「うん。一緒に待つよ。それよりどうだった?」
「特に問題は無さそうって。詳しい結果は家に郵送されるよ。」
「ちゃんと見せてね」
「うん」
肩に腕が回される。
他の患者さんもいるのに、ピッタリ隙間なくくっつく彼に少しドキドキした。
受付のスタッフさんに名前を呼ばれ、お会計をしに行くと当たり前のように着いてきた彼がサッとお金を払って、説明を一緒に受けて病院を後にする。
「ヒロ君、お金!」
「お腹すいたからご飯いこうよ」
「ねえヒロ君」
「その後俺の家くる?今日は泊まる?」
「……ヒロ君。お金返す」
「いいって」
ヒロ君はアルファだ。
アルファは独占欲が強くて、運命の番となると尚更。
自分のオメガに対しては信じられないくらい甘くなる。
──それはわかっているのだけれど。
「勝手なことしないで」
「……ン?」
「僕、お金持ってる。子供じゃない。」
「……あ?あー、ごめんね。蒼太の事になると何でもしたくなっちゃって。」
「ありがたいけど、さっきのは嬉しくなかった。」
「うん。気を付けます」
思ったことを口にした。好意を蔑ろにしてしまったことは申し訳なく思う。
でも運命の番とはいえ今はただの恋人なのに、ここまで面倒を見られては、縛られすぎているような気もして嬉しくない。
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