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第5話
初めて彼に会ったあの時以来、発情期が来ていないことにヒロ君も気づいているはず。
けれど何も言ってこない。
三ヶ月に一度も確実ではないから、周期がズレてしまっているんだろうとは思うけれど、やっぱり内心焦っている。
抑制剤とは逆の効果がある誘発剤を飲むべきかとも考えたけれど、根本的な解決にはなりそうにないし。
とまあ、なぜこんなに真剣になっているかと言うと。
「異常なしかぁ」
金曜日の夜、仕事から帰ってくると自宅に送られてきていた診断結果。
そこには『異常なし』の文字があった。
尚更周期がズレただけだと思えたらいいのに、ヒロ君と番になりたい欲が出てきてモヤモヤする。
とにかく、異常がなかったこと、発情期がこないのは多分周期がズレているだけだってことをヒロ君に伝えようと思い、彼に時間が空いたら電話をしたいとメッセージを入れる。
ヒロ君は今日、飲み会に参加すると言っていたから邪魔をしないように。
するとメッセージを送ってすぐ、彼から電話が来て驚きながらそれに出た。
「もしもし?」
「あ、蒼太、どうしたの?」
「今大丈夫なの?飲み会は?」
「蒼太から連絡来たから俺も話したくなって、今ちょっと外に出てるんだぁ。」
「あ……ふふ、そうなんだ。」
「うん。それで、どうかした?」
温かい気持ちになる。
ヒロ君はいつも僕が嬉しくなる言葉をくれる。
「診断結果が送られてきたんだ。それで特に異常はなかったんだけど……」
「え、だけど……?何、何かあったの」
すごく焦ったような声が聞こえて、慌てて「違う違う」と声を掛ける。
「発情期、ずっと来てないから、気になってたのに異常なしだったから……多分、周期が乱れてるのかなって思って。ヒロ君、発情期が来ないことについて気付いてるでしょ?それなのに気を遣って何も聞いてこないし……先に伝えておこうと思って。」
「……そっか。ごめん、逆に気を遣わせた。蒼太が健康ならそれでいいよ。」
「うん……ありがとう」
「今日そっちに行っていい?」
いいよ、と言おうと口を開くより先に、電話口から「橋本さーん」と女性の声が聞こえてきた。
なかなか戻らないヒロ君を心配して来てくれたのかもしれない。
「早く戻りましょうよ。あ、それとも彼女さんから電話ですか?飲み会中なのに電話してくるなんて束縛しいだなぁ」
「俺から電話したんです。声聞きたかったんで。ていうかお酒飲みすぎですよ。」
「私も彼女さんの声聞きたーい!代わって!」
「嫌です。──ごめん、後で家行くね。」
ヒロ君が最後に僕に向かってそう言って電話が切れる。
酔っ払いの相手は大変だよね。とだけ思ってお風呂に入った。
電話を切ってすぐはあまり何も思わなかったけど、湯船に浸かっている間に『束縛』という言葉に少し引っかかった。
確かに、飲み会中とわかっていながらメッセージを送ったのはおかしかったかも。
わざわざ電話がしたいなんて言えば、何かあったのだと思うだろうと予想できたはず。
そこまで気が回らなかった自分に嫌気が差す。
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