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第8話

■ ブー、ブー、とスマートフォンのバイブ音に起こされる。 何度も震えているそれを上体を起こして手に取ると、ヒロ君のもので、ちらりと見えた画面には女性からだと思われるメッセージが何件も届いていた。 『お休み中にすみません。昨日はありがとうございました』から始まったメッセージは、五件程続くと、最後に『お礼と言ってはなんですが、一緒にランチにでも行きませんか。』の誘いて終わる。 「……ヒロ君。いっぱい連絡来てるよ。起きて」 「んー……」 ゆさゆさ、彼の肩を揺らす。 メッセージの内容に何も感じなかった訳では無いけれど、昨日の飲み会で酔っ払ってしまった人がいたと言っていたことから予想できるのは、その人が介抱してくれたヒロ君をお礼にとランチに誘っただけ。 何もおかしなことは無い。 「ん、誰、何、連絡って……」 「見てもいいの?」 「うん。誰から?」 「えっと……濱田さん?」 「ああ……昨日酔ってた人。なんて来てる?」 「昨日はありがとうってことと、お礼にランチどうですかって。」 ヒロ君は目を閉じたまま顔を顰めて、僕の腰に腕を回し抱きついてくる。 少し寝癖のついた髪を撫でてあげると、その表情が和らいだ。 「後で返事しておくよ……。ランチは行かない。蒼太と一緒に過ごす時間だって決めてるから……」 「別にいいのに」 「俺が良くないの」 「そう。……あ、まだ寝るの?」 「ううん。蒼太の匂い嗅いでる」 「っ!ぁ、ヒロ君、ダメだよ!シないよ!」 彼の手が僕のお尻をそろっと撫でて、下履に手をかけようとしたので慌てて止める。 ムッとした顔で彼の手を止めた僕を見上げてきた。 「最近全然シてない……。別にセックスがしたくて一緒にいるわけじゃないけどさぁ。」 「だって平日は次の日が辛いかもしれないから嫌なんだもん」 「今日は休みじゃん。その理由なら昨日の夜でもよかった」 「昨日の夜は口でしてあげたじゃん」 「そういうことじゃないんだって」 のっそりベッドに座ったヒロ君は、小さく溜息を吐くと僕を見て眉を寄せる。 「俺に触られるの嫌?」 「何でそうなるの」 「そう思っちゃったんだよ。昨日帰ってきた時だって素っ気なかったし……。前にセックスした時、俺何か嫌なことしちゃった?」 「……してないよそんなこと。」 「それなら……、──ああ、もう、いいや。」 ベッドから降りた彼はそそくさと顔を洗いに行く。 諦められた。そのおかげで虚しさと腹立たしさに小さく火がついて、少しして彼を追いかける。 「ランチ行ってこれば」 「はあ?」 顔をタオルで拭いていた彼に言葉を投げつける。 鏡越しを僕を見たヒロ君は呆れているのか怒っているのか、そんな顔をしていて。 「そんなにエッチしたいならそういうお店にでも行けばいいし。」 「何言ってんの」 タオルを置いて、ゆっくり振り返った彼は冷ややかな目をしていた。

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