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第9話
「何?俺に他の人抱いて来いって言ってるわけ?」
「……エッチしたいならそうすればいいじゃん」
「何でそうなるんだよ。」
「シたいんでしょ。じゃあ我慢せずに発散してくればいいってだけ」
「……話通じないな。」
僕を押し退けてリビングに行った彼に余計ムッとしてしまって、彼の居なくなったそこで顔を洗ってからリビングに行く。
「どうせ濱田さんって人、ヒロ君に気があるんだからその人と付き合えば!」
「意味わかんないこと言うなって」
何度目かの溜息を吐いたヒロ君が服を着替えて荷物を整える。
「好きな人とセックスしたいって思うことがそんなに悪いのかよ。ひとつのコミュニケーションだろ。」
「次の日が辛いかもしれないから嫌だっていうのも悪いことなの?」
「そんなこと言ってないだろ……。でも俺らもう一週間以上シてないよ。毎日ずっと一緒にいる訳でもないから、泊まった時くらいはシたっていいだろ。」
「……でも同棲は断ったじゃん」
「別々に住んでる今でもセックス断られてんのに、同棲してからもずっと我慢しろって?とんだ地獄だろ」
荷物を手に持った彼は玄関の方に行って靴を履く。
あ、と思うよりも先に彼は扉を開けて振り返った。
「俺今、全く冷静じゃないから帰る。」
「……」
「申し訳ないけど、落ち着いたら連絡するから、その時話聞いて。」
「……」
そうして出ていった彼。
バタンと扉の閉まる音が大きく聞こえた。
■
ベッドに倒れてそのまま動けないでいる。
何であんなことを言ってしまったんだろう。
何でもっとちゃんとヒロ君の話を聞かなかったんだろう。
確かに彼が言ったことは何一つ間違ってなかったと思う。
僕が頑なに彼との触れ合いを断って……それじゃあまるでヒロ君に触られることを嫌がっていると思うのは普通だろう。
「なんであんな酷いこと言っちゃったんだ……!」
お店に行けばいいとか、濱田さんと付き合えばとか……。
この口か!この口が余計なことを!
うつ伏せになりグッと唇を噛んだ。
謝らなきゃ。
最低なことを言ったんだ、謝って許して貰えるとは思わないけれど伝えなきゃ。
スマートフォンを手に取ってメッセージアプリを開く。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさいだけでいいのかな、ちゃんと何に対してなのか言わなきゃ……」
でも文章にヤラシイ言葉を残したくない。
「電話……ぁ、でも、出てくれるかな……」
あんまり刺激するようなことはしない方がいいのか、どうなのか。
悩んだ結果、スマートフォンを離して顔を伏せた。
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