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第14話

お昼の時間になるとすぐ、財布を持ってロビーに向かう。 この時間、エレベーターはいつも混んでいて中々下りられそうにないので階段で一階に行くと、もう既にヒロ君がいた。 「ヒロ君!お疲れ様!」 そう言いながら駆け寄ると、ヒロ君は何故かゲッソリとしていて。 「お疲れ様ぁ……。」 「何その顔。どうかした?朝と全然違いますが」 「……早く出よ。お店で話す」 「ん?うん。」 隣に並んで歩き、朝話していたカツ丼を食べに丼の専門店に入る。 席に座り注文をしてお水を飲むと、ちらっとこちらを見てきた彼に首を傾げた。 「執拗いくらいご飯に誘われて、何度も何度も断ってたら疲れた。」 「あー……濱田さん?」 「うん。恋人いるってのも伝えてるし、お礼をされることもしてないし、だからいいって言ってるんだけど……。」 「ほらぁ、完全にヒロ君に気があるじゃん。」 「何で!?恋人いるって言ってるのに!」 「奪ってやろうって思ってるんだって!え、なんか嫌だこの話。もうやめていい?」 「すみません」 シュンとした彼に、モテる人って大変だよなぁと他人事のように思った。決して他人事ではないのに。 その大変な人は間違いなく僕の運命の番なのに。 「ヒロ君がそういうのに靡かないってわかってるから言うけど、一回くらいご飯行ってきた方が彼女も満足するんじゃない?」 「えぇー!蒼太とご飯する方が何倍も楽しいし美味しいからヤダよ」 「っふふ、そんなこと言って恥ずかしくないの?」 思わず笑うと、首を左右に振る彼。 嬉しいけど、面白い。 「嬉しい。僕もヒロ君とご飯するのが楽しくて好き」 「……今日の夜ご飯作りに来てくれない?」 「いいよ。そのまま泊まろうかな」 「……いよいよ同棲考えた方がいい?」 「この前断ったくせに?」 「蟠りは何も無くなったじゃん!」 つい最近の一件で欲を我慢するばかりの日常を送らなくていいとなったおかげか、同棲に前向きになった彼に、自然と口角が上がった。

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