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第18話

家から出て暫くは近い距離で話をしたり、ほんのり彼の腕を触ったりしてスキンシップを図るけれど、会社が近づくにつれて少しずつ距離をとる。 「蒼太は付き合ってるのバレたくない?」 「バレたくないというか……好奇の目で見られるのが苦手。」 「見られるかな。心配しすぎじゃない?」 「見られるよ。社内恋愛な上、同性同士だよ?」 「そっか。」 本当はヒロ君が言い寄られたりしているところを見たくないから、ずっと傍にいたいけれど、その反面男同士だということや、僕自身がオメガだということで、僕だけじゃなく彼も世間から後ろ指さされるなんてことは起きて欲しくない。 一時期、そういった環境で生きていたことがある身としては、あの生活は苦しかったから余計に。 「ごめんね。もうちょっと僕が堂々とできたらいいんだけど……」 「ううん。こういうのってお互いの気持ちが大切だし」 「……ありがとう」 「いいえ。あ、昼休みになったらあのスペースに行くね。そこで待ち合わせ」 「わかった!」 ビルについてエレベーターに乗り、自分の部署がある階に到着して彼と別れる。 周りの人に挨拶をしながら自分のデスクに着く。 少し休んでから準備をしようと軽く伸びをしていると、「おはよう」と声を掛けられる。 顔をあげれば同僚の男性──北田さんがいた。 彼は三つ年上の先輩。 優しくて気さくで、仕事もできる人。 「おはようございます」 「あのさ……急なんだけど、上住君って総務の橋本さんと仲良いよね?」 「ああ、まあ、はい。」 突然、どうしたんだろう。 まさか仲がいいと言っているけれど、何かの拍子に僕達が付き合っていることがバレたとか……!? 「実は俺の同期の女子が橋本さんと話がしてみたいらしくて」 「え……あ、そうなんですね。」 思っていた内容ではなくてほっとする。 けれどすぐに疑問符が頭に浮かんだ。 「話してみたいって……気になってる、とか?」 「あー……うん。らしい。二人でたまにご飯行くんだけど、彼氏が欲しいって……総務にすごくイケメンがいて、その人と話してみたいって。」 「……でも橋本さん、恋人いますよ。」 「えっ!そうなの!?」 北田さんが大きな声を出したせいで、周りの人が『どうした』とこちらをちらちら見てくる。

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