29 / 143
第29話
ちょうどお昼時。
ラーメン屋さんは人が十人程並んでいた。
順番待ちの間にヒロ君が不動産屋さんに電話を掛けて、当日予約が可能かどうかを聞いている。
やっぱり土曜は混んでるんじゃないかなぁと、何件目かの電話を掛けだした彼を見て思っていると、嬉しそうな顔をしたヒロ君が僕に丸サインを送ってきた。
電話を切った彼に「いけたんだ?」と聞くと、眩しいくらいの笑顔で頷く。
「たまたまキャンセル出たんだって!すごい丁寧な人だった!」
「そうなんだ。よかった……っわ!」
列が動いたので話しながら進むと、凸凹だった道に足を取られて躓く。
「おぉ……ビックリしたぁ……」
ヒロ君が咄嗟に僕を抱き寄せて独り言のよう呟いた。
僕は心臓をバクバクさせながら「ありがと」と言って彼の腕をトントンと叩く。
足腰に変な負担がかからなくて良かった……とホッと息を吐くと、するりと腰を撫でられてピョッと背筋が伸びた。
「!」
「痛くない?」
「ぁ……大丈夫です」
「よかった。蒼太危なっかしいから俺の腕掴んでて。それかずっとこうしてる。どっちがいい?」
体が密着したまま、どうする?と聞かれ、慌てて体を離す。さすがに公衆の面前でこんなにくっついてはいるのは恥ずかしい。
「腕掴ませて……?」
「どうぞ」
差し出された腕を掴み顔を上げる。
すると既に前が少し空いていて、歩いてその空間を詰めた。
ともだちにシェアしよう!