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第29話

ちょうどお昼時。 ラーメン屋さんは人が十人程並んでいた。 順番待ちの間にヒロ君が不動産屋さんに電話を掛けて、当日予約が可能かどうかを聞いている。 やっぱり土曜は混んでるんじゃないかなぁと、何件目かの電話を掛けだした彼を見て思っていると、嬉しそうな顔をしたヒロ君が僕に丸サインを送ってきた。 電話を切った彼に「いけたんだ?」と聞くと、眩しいくらいの笑顔で頷く。 「たまたまキャンセル出たんだって!すごい丁寧な人だった!」 「そうなんだ。よかった……っわ!」 列が動いたので話しながら進むと、凸凹だった道に足を取られて躓く。 「おぉ……ビックリしたぁ……」 ヒロ君が咄嗟に僕を抱き寄せて独り言のよう呟いた。 僕は心臓をバクバクさせながら「ありがと」と言って彼の腕をトントンと叩く。 足腰に変な負担がかからなくて良かった……とホッと息を吐くと、するりと腰を撫でられてピョッと背筋が伸びた。 「!」 「痛くない?」 「ぁ……大丈夫です」 「よかった。蒼太危なっかしいから俺の腕掴んでて。それかずっとこうしてる。どっちがいい?」 体が密着したまま、どうする?と聞かれ、慌てて体を離す。さすがに公衆の面前でこんなにくっついてはいるのは恥ずかしい。 「腕掴ませて……?」 「どうぞ」 差し出された腕を掴み顔を上げる。 すると既に前が少し空いていて、歩いてその空間を詰めた。

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