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第32話
クスクス笑った宇垣さんは、それからいくつかの質問をしたあと、「こちらの部屋はどうですか?」とパソコンのディスプレイの角度を変えてこちらに見せてくれた。
他にもいくつかの部屋を見せてくれて、その中のいくつかを次の休みの日に内見させてもらえることになった。
突然決まった予定だったけど、今日ここに来れてよかったかも。
お店を出る時、お見送りをしてくれる宇垣さんに、彼女も丁寧な人でよかった。と思って振り返る。
「あ、ひろ……橋本さん。また連絡してもいい?」
「うん。前と何も変わってないから、いつでも。」
彼女は嬉しそうに笑って、頭を下げる。
それを見てから踵を返し、家に向かう。
なんだか、胸の内がモヤモヤした。
多分、ヒロ君が宇垣さんと仲良く話しているのを見て、ちょっと嫌な気持ちになったんだと思う。
「宇垣さんとは同級生?」
「うん。中学と高校が一緒だった。」
「仲良しなんだね」
「結構同じクラスになることも多かったからなあ。……あ、ごめん。俺馴れ馴れしくし過ぎたよね。」
ここは『別に気にしてませんが』という顔をする方が大人なんだろうけど、僕は素直にムスッとして「本当にね」と言ってやった。
「まあ、別に?疚しいことがないならいいと思いますが。」
「え、無いよ!美波とは何ともない!蒼太ぁ、ねえ、信じて……?」
街中なのに僕の肩を掴んで、正面から子犬のように目をウルウルとさせ『お願い』をする彼に僕が適うはず無く。
「わかってるよ。」
無意識に入っていた肩の力をフッと抜いた。
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