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第50話
自分の席に座り一息吐くと同時、北田さんがやって来て「昨日の見た!」と勢いよく言ってくる。
「おはようございます」
「あ、おはよう!それより俺、昨日見たんだよ、橋本さんの彼女!」
彼がそう言うと、同じようにヒロ君と宇垣さんの姿を見たらしい人達がチラホラとやってきた。
可愛かったとか、お似合いだったとか、そんな声が聞こえてくる。
話が盛り上がっている間にスススとその場から離れて、トイレに入った。
ヒロ君とは話をしたし、他人が思う事をいちいち気にしているのも馬鹿馬鹿しい。
けれどなんて言ったって僕と彼は運命の番だから、そういう言葉を聞くとモヤモヤしてしまう。
ヒロ君は僕のなんだと大声で言ってやりたい気持ち。
けれどそれをしてしまうと多くの人から嫌な目で見られる可能性がある。
それが僕だけじゃなくヒロ君もと考えると余計にそんなことはできない。
「はぁ……。!」
深く溜息を吐くのと殆ど同時にスマートフォンが震えた。
画面を見るとヒロ君からのメッセージが来ていて。
どうやら出勤した途端に僕と同じような状況になって困っているらしい。
もしかすると周りが色々噂をして僕が嫌な思いをしているのではと心配して連絡をくれたみたいだった。
「……バカめ」
自分で蒔いた種だ。しっかり困ってください。
落ち着いているように見えて、心ではあたふたと焦っている彼の姿を想像している内に胸はスっとした。
時計を見るとそろそろ始業時間になる。
ささっと走ってデスクに戻り、フゥと息を吐いた。
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