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第51話
昼休み、ググッと伸びをして席を立とうとすると、北島さんが「あれ橋本さん?」とどこか嬉しそうな様子で声を掛けてきた。
北島さんの視線を追いかけると、部署の入口で何でもない風を装ったヒロ君がいた。
じっと見ていると目が合って、パァっと笑顔になった彼に不覚にも胸がキュンとしてしまう。
「そうですね。橋本さんです。」
「めちゃくちゃ笑顔だけど」
「綺麗な顔してますよね」
「あ、うん。そうだね?」
ランチに行く準備をして立ち上がる。
ヒロ君の傍に行くと「お疲れ様」と言われ、同じ言葉を返した。
「俺の送ったメッセージ見た?」
「見たよ」
会話をしながら歩く。
「あ……怒ってる……?」
「怒ってないよ。」
ホールに着くとタイミング良くやってきたエレベーターに乗って一階まで降りた。
「あの、俺本当、何も考えずに会社で待ち合わせとかしてごめんなさい……」
「もういいって」
エレベーターを降りてしばらく。
そう言った彼に半ば呆れながら返事をする。
「でも蒼太と付き合ってるのに、こんな噂流れたら嫌だろ……?俺が悪いのはわかってるけど、俺自身も嫌だし……」
「まさか僕と付き合ってるとは言う気じゃないよね……?」
「いいたい、けど……蒼太が嫌なら言わない。」
ムグっと口を閉ざした彼。
我慢を強いて申し訳ないと思う。
僕ももういいじゃないかと一瞬揺らぐことがあるけれど、後のことを考えると、やっぱり簡単に良いとは言えない。
「あ、そんな顔しないで。」
「……僕変な顔してた?」
「変と言うか、葛藤してる顔」
「大正解。今葛藤してた……」
ビルを出て、近くのお気に入りのお店に入る。
ヒロ君と向き合って座り、小さく息を吐いた。
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