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第52話
ご飯を食べた後、話をしながら会社に戻っているとヒロ君が「あ、ごめん電話……」とポケットからスマートフォンを取りだした。
「……」
「何で出ないの?」
「ううん。なんでもない。気にしないで」
ポケットに戻した彼は、僕の手を掴もうとしてピシッと固まる。僕も同じように固まった。というのも外で、しかも会社の近くでスキンシップは最小限に抑えたかったから。
「ごめん、外ではしないんだった……」
申し訳なさそうな、悲しそうな、そんな表情をする彼にぐぬぬ……と唇を噛んで、僕から少し離れようとした彼の手をグッと掴んだ。
「えっ!?」
「ちょ、ちょっとくらいなら大丈夫だと思う!」
「ええ、急になんの自信……?すごく嬉しいけど」
気にせず手を繋いだまま会社の近くまで帰り、ビルに入る少し前に手を離す。
「ここからは、我慢してください。ごめんね」
「え?えへ、いいよ。大丈夫。ありがとね」
緩みきった笑顔の彼にホッとして、ビルに入る。
ヒロ君と別れて自分の席に行き、誰にも変な目で見られていませんようにと、ひっそり祈った。
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