65 / 143
第65話
■
今の仕事はやりがいがあって楽しい。
ここに勤める前は、差別の酷い職場だった。
採用されたのは良かったものの、履歴書に正直に書いた性別で『オメガだから』と毎日のように仕事を押し付けられ残業をしたり、暴言を浴びせられたりしていたから。
ここは僕がオメガだと知らない人ばかりだからなんとも言えないけれど、そもそも専務が差別をしない人だし、実際他にもオメガの人が働いているから前の環境よりずっといい。
それに入社前に発情期になった時の為に休暇があることも教えてもらった。
まあ、それはまだちゃんと使ったことがないけど。
「──じゃあ上住君、この案件任せてもいい?」
「はい。大丈夫です。」
月に一度行われるミーティングで一つの仕事を任されることになった。
入社してまだそれほど経ってはいないのに、仕事を任せて貰えるほど信頼を得られたのだと嬉しくて、澄ました顔をしているけれど内心ワクワクしている。
「上住君は真面目だから、無理しない程度に。困ったことがあれば周りに聞いて、悩まないようにね。」
「ありがとうございます」
北田さんが僕の肩をポンと叩く。
その励ましに俄然やる気が湧いた。
「それではミーティングを終わります」
その合図で立ち上がり、渡された資料を腕に抱えて自分の席に戻る。
これからちょっと忙しくなるぞ!
それすらも楽しみで、思わずヒロ君に『仕事を任せて貰えた!』とメッセージを送った。
ともだちにシェアしよう!