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第68話

仕事を終えてロビーで待っていると、とても綺麗な女性と話しながらやってきたヒロ君。 あの人は見た事がある。確か名前は新木さん。 初めてヒロ君と出会った時、発情期になった僕を真樹やヒロ君と一緒に助けてくれた人。そういえば彼女もアルファだったはず。 「蒼太ぁ、お疲れ様!」 「お疲れ様。えっと……新木さんも、お疲れ様です。それからお久しぶりです」 様子を伺いながら声をかけると、新木さんも同じように返事をしてくれる。 「たまたまエレベーターで一緒になってさ。じゃあな新木。またな」 「ええ、また」 ペコッと会釈する。 彼女はクールビューティという感じ。 それほど関わったことがないことに加え、綺麗な人だから緊張してしまった。 「新木さんって綺麗だよね」 「……まさか新木に惚れた……!?」 「あ、いや、そういうことじゃなくて。綺麗だから人気ありそう」 「確かに綺麗だけど、学生の頃から高嶺の花って感じでさ、告白したいけど振られるの確定だしって話しかけることもできない意気地無しが量産されてたよ。」 「……ン?同級生なの?」 「言ってなかったっけ?」 「初めて聞いた」 そうか。あんなに綺麗な人が同級生なのか。 「あれ、じゃあ宇垣さんとも知り合い?」 「あー、そうだね。話してるところは見たことないけど」 ビルを出て歩きながらずっと話をする。 なんでもない話から、今日買うケーキのことも。 「家の近くのケーキ屋さんでいい?あそこのイチゴたっぷりのショートケーキがすごく美味しい。蒼太がショートケーキ苦手じゃなかったらぜひ食べて欲しい」 「苦手じゃないよ。むしろ好き」 「よかったー!……あ、それでいい?他のケーキ食べたい?」 「ううん。それにしよ!」 今日は金曜日。 ケーキの後、もう少し夜が深くなった頃に訪れるであろう甘い甘い時間を期待して、足取り軽く歩いた。

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