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第72話

「どこ行くんだよ」 「ご飯作ろうかなって。それにケーキも廊下に置きっぱなしだし……」 「……ご飯やめて、ケーキ食べよ。」 「ご飯やめるの?」 「……今、蒼太から離れたくない」 こんな時に不謹慎だけれど、腰に手が回されてお腹に顔をくっつけるように抱きつかれて、胸が痛いくらいにキュンとした。 空いている片手でそっと彼の頭を撫でる。 「わかった。じゃあケーキ食べよ。」 「ロウソクつけよ」 「うん。準備してきてもいい?」 「俺がやる。蒼太のお祝いだから」 立ち上がったヒロ君は僕と手を繋いだまま廊下でケーキを取ってからキッチンに行く。 「あ、マッチとかない。……いや、ライターあったな」 「煙草吸ってたの?」 「随分前にね」 「ふーん?」 「今は吸ってないよ!本当!」 「別にいいよ、気にしないよ。」 煙草を吸っているヒロ君の姿を想像して格好いいなあと思っていたのに、僕が嫌がっていると思ったのか一人焦っている彼は「違うよ!」と慌てて言ってくる。 「吸ってる姿想像したら格好いいだろうなって思っただけだよ?」 「か……格好いい……?」 「うん。あ、でもあんまり吸わないでね。体に悪いと思うからね」 「もう吸うつもりは無いけど……格好いいって言われると揺らぐかも」 「単純すぎ」 クスッと笑うと、ヒロ君が僕を見て同じように笑う。 少し空気が軽くなった。 彼がケーキにロウソクを刺す後ろ姿を、ほっとしながら見つめた。

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