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第73話
ロウソクに火をつけ、電気を消した。
「おめでとう!」
「ありがとう!」
拍手して明るい雰囲気で楽しんで、ロウソクを吹き消したあと電気をつけた。
お皿に切り分けようとして、ヒロ君に「ねえ」と止められる。
「このまま食べない?切り分けた方がいい?」
「いや、ううん。このままでいいよ」
彼の好きなように。
出したお皿を隅に寄せる。
「あ、ごめんね。なんかすごく気を遣わせて……」
「何言ってるの。ヒロ君こそ気を遣いすぎ。このまま食べた方が洗い物も少ないし楽だよね。」
ハイ、と持っていたフォークを渡す。
受け取った彼はくっと口角を無理矢理上げた。
「ありがとう」
「ううん」
向かい合って椅子に座り、ケーキをつつく。
音が無い。
暫くして我慢が出来なくなって、「ヒロ君」と彼を呼ぶ。
「ん?何?」
「……あのね、お祝いでこうして一緒にケーキを食べれるのは嬉しいんだけどね、無理しないでいいよ。あんまり食欲無いでしょ。残っても僕が食べるから、頑張らなくていいからね。」
彼の顔を見ずにそう言って、フォークを置く。
そうすると彼もフォークを置いて、「ごめんね」とまた謝った。
「謝らなくていいから。ね、僕食べちゃうよ?いい?」
「もちろん」
「本当に美味しいから全部食べちゃいそう。太っても嫌にならないでね」
「蒼太はちょっとぷにってしてる方がいいと思うよ」
「適当なこと言ってぇ」
ケーキを引き寄せてグサリと刺す。
甘すぎずにイチゴの甘酸っぱさが活かされたケーキは美味しくて、お腹いっぱいにそれを食べた。
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