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第84話
「何か隠してない?」
「何も隠してないよ」
「……わかったよ」
多分、本当に疲れてるだけ。
疲れてるから後をつけられてるだとか考えちゃってる。
だってどう考えても僕の後を尾けて得する人はいない。
ヒロ君はパッと手を離して「何かあったら言って」と言ってくれた。
「うん。何かあったら」
「じゃあ……お疲れ。今日はもう会えないかもしれないけど、帰ったら連絡欲しいな。」
「わかった」
「あ、五分とかでいいからね。蒼太は早く寝ないといけないから」
「わかったって。じゃあね!」
ヒラヒラ手を振って自分の部署に戻る。
エレベーターに乗った段階でズンと気持ちがまた重たくなったけれど、勢いよく息を吐いて気持ちを切り替えた。
■
ふぅ、と一人になったフロアで息を吐く。
時間は午後八時。
ようやく今日終わらせる仕事が片付いて、そろそろ帰ろうと帰宅準備をする。
フロアの電気を消して、ホールでエレベーターを待っていると上から降りてきたそれ。
ドアが開いて乗ろうとすると、そこには真樹と専務がいた。
「え、蒼太!?何でいるの?」
「お疲れ様です。残業してて」
「ご苦労様。ご飯食べた?俺達まだで、今から食べに行こうかって話してたんだけど」
専務からの嬉しいお誘い。
だけど「すみません」と言って断る。
「あ、橋本が待ってる?」
「あ、あー、うん。そうなんです。ごめんなさい」
「それは仕方ないよね。家まで送ろうか?」
「大丈夫ですよ。真樹がお腹空いてると思うのでご飯連れて行ってあげてください」
一階についてエレベーターを降りる。
二人は駐車場までこのまま下りていくので、ドアが閉まる前に「お疲れ様でした」と頭を下げた。
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