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第85話
ビルを出て一人歩く。
少しして誰にも尾けられている感じがしなくて安心した。
いつもならとっくに感じる嫌な感覚だけど、今日は無い。
夜も遅いからだろうか。
家の近くのスーパーで割引のお惣菜を買った。
そう言えばヒロ君が帰ったら連絡が欲しいと言っていたことを思い出した。
まだ家に着いていないけれど掛けてしまおうとスマホを出す。
その時だった。
「──上住さん」
何度か聞いたことのある声。
これは無視をするべきかと思ったけれど、それより先にトントンと肩を叩かれる。
「こんばんは。偶然ですね」
「……う、がきさん」
何でここに。
どうして声をかけてきたんだ。
色んな考えが頭に浮かんで、スマホを強く掴んだまま「こんばんは」と冷静を繕って返事した。
「お家近くなんですか?」
「え?」
「お買物してたみたいだから。」
買い物袋を指さされ、咄嗟にそれを背中に隠した。
ふふ、と微笑んだ彼女は僕と距離を詰めてくる。
警鐘が響く。目の前に立った彼女と目が合ってヒュッと喉が鳴った。
「この前はごめんなさい」
なのに、彼女はそう言って突然頭を下げた。
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