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第86話
「え、ぁ……」
「洋哉……橋本さんのこと。二人がお付き合いしてるって知らなくて、しつこくしてしまって。」
何を言われているのか一瞬理解が出来なくて、反応が遅れた。
慌てて「いえっ」と裏返ってしまった声で言えば、顔を上げた宇垣さんがキョトン……とした顔をしてから口角を上げる。
「嫌な思いをさせたと思います。上住さんには特に」
「あ、だ、大丈夫です。ヒロ君と宇垣さんの問題だと思っていたので、僕はあんまり口出てないし……。正直、確かに嫌だなと思う時もあったけど、今は大丈夫です。気を使ってくださってありがとうございます。」
緊張からか、ベラベラと思ってもないことを話してしまった。
大丈夫なんかじゃない。本当はヒロ君に届く連絡が怖いとも思う時があったし、なんなら今も怖い。
喉が渇いて、唾液を飲み込んだ。
やだな、早く家に帰りたいな。
まだ口角を上げてそこにいる彼女にどうしたらいいんだろうと悩んでいると、突然腕を掴まれてビクッと震えてしまう。
「よかったら友達になりませんか?私達、気が合うと思うんです。」
「へぁ……?」
「同じ人を好きになったんですよ?そう思いませんか?それに私……高校生の頃、ちょっとの期間だけど、橋本さんの彼女だったんです。」
「……は?」
そんなの初めて聞いた。
体温がスーッと奪われていく。
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