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第87話
「彼女……?え、ヒロ君の……?」
「はい。あ、あんまり聞きたくないですよね。ごめんなさい。」
「……」
理解が追いつかない。
そんなこと、ヒロ君は一言も言ってなかった。
きっと宇垣さんが嘘を吐いているんだ。
──でも、嘘を吐く理由は?
同じ人を好きになったから、友達になりたい。
その為に嘘を吐く必要があるのか。
だって彼女がヒロ君を好きでいることなんて、そんなの知っているし。
──じゃあやっぱり、嘘じゃない?
「あの……大丈夫ですか?」
「……大丈夫です。ごめんなさい。僕そろそろ帰らなきゃ。」
「そうですよね。呼び止めてごめんなさい!またお会いできたら嬉しいです!」
「はは……失礼します。」
買い物袋を抱え、逃げるように家まで走る。
わからない。どういうことだ。
勢いよく家に入って鍵をかける。
連絡することなんか忘れて、買ってきた物と荷物を床に放り、すぐさまお風呂に入ってシャワーを浴びた。
少し冷静になって考えたかった。
冷たい水を頭から浴びても考えは纏まらなくて、冷えきったままお風呂場から出てベッドに倒れた。
荷物と一緒に放ったスマホは、廊下で細かく震えていた。
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